第7回 akeさん(東方手書き作者)


【あけ】
東方手書き作者。関東在住。
2010年5月16日、『【東方】ナポリタン東方1【手書き】』を投稿し、ニコニコ動画デビュー。細部まで描き込まれた幻惑的な絵と、謎解きとしての要素を前面に出した作風で、初投稿ながら人気作品となる。
最近では特濃ミルク氏がオーナーをつとめるナポリタンコミュニティで不定期に生放送も行っている。


niconico pixiv twitter

しってやったり、な作品を作りたいなとは思っています。

※なお、この記事ではナポリタン2,3のネタバレが多分に含まれます。未視聴の方はご注意ください

『ある日、私は動画を投稿することにした。』


──それでは改めましてよろしくお願いします。

ake:よろしくおねがいします。これって普通に喋って大丈夫なんですかね?


──全然大丈夫ですよ! リラックスして話されてください! 私もインタビュアーの癖に喋りすぎてしまうので!

ake:ありがとうございます(笑)。


──さっそくですがどうして動画を投稿しようと思われたんですか?

ake:きっかけはニコニコ動画の存在を兄に教えられてからですね。色んな動画を観るうちに、自分でも動画を制作したくなっていったんですが、ネタはしばらく思いつかなくて。それで、動画投稿の半年くらい前にナポリタン問題というものに出会いまして。これで作ろうと思って出来たのがナポリタン東方ですね。


──作るならホラーなものを、というのは最初にあったんですか?

ake:いや、変わったモノが描きたいというのはあったんですよ。話にしても、絵柄にしても。東方の二次創作でまだあんまりやられてないようなことをしたいなぁとは思っていました。


──以前から絵だけではなくお話のほうも意欲があったんですね?

ake:はい、というのも、趣味程度ですけど小説を書いていたんですよ。


──それもホラー系統が多かったんですか?

ake:ホラーもそうですけど色々なネタを少し書いては溜めてましたね。でも、ハッピーエンドは人に見せるのがすごく難しいなと思っていて。絵にするにも文にするにも、感動させるってすごく技術がいるじゃないですか。


──そうですね、それは確かに。

ake:でもホラーだと、例えば貞子*1みたいなモノを最後に出して「怖い!」っていう感じで終われるんですよ。怖いモノがばっとでてきて、それでぷつっと終われるので完成された起承転結とか必要ないんですよね。それで自分にはそういう話作りのほうが合っているかな、と思ってホラー系統のものを作るようになりました。


──確かに、ホラーは最後にぶつ切りだったり意味深な感じでも成立しますよね。

ake:文を書くとしたら、感動するものって長くないと説得力が出ないんですけど、ホラー、それこそナポリタン問題なんかだとたった数行で恐怖感を出せるんですよ。技術がない自分が人に見て貰うには、ホラーしかないなと考えてはいましたね。


──ホラーモノって短編も多いですしね。

ake:見る側も短いほうが見てくれる可能性が高いかなと思いますし。描くとわかりますが、感動モノを作るのってすごく労力がいると実感します。


『そんな中、一冊の本を見つけた。』


──東方projectの存在を知ったのはいつごろでしたか?

ake:2年くらい前ですかね。最初に見たのは、いえろ〜ぜぶらさんの『第2回東方M-1ぐらんぷり*2ですね。そこから色んな手書き動画を見るようになりました。


──東方作品でお気に入りのものはありますか?

ake:もう多すぎて挙げきれないんですけど、ピレスロイド*3さんの『東方十代録』は大好きな作品です。伏線の多い作品なんですけど、僕の動画のコメントでも十代録の名前が出ることがあって、同じ系統の作品として見られてるようで嬉しかったですね。あとは村上さん*4の作品。特に『ふゆのひまわり』*5がお気に入りです。


──お気に入りのキャラクターなどはいますか?

ake:紅美鈴ですね。


──おお、意外なところですね。動画にはまだ登場していませんが…。

ake:そうですね。美鈴ってモデルとなった妖怪が明確じゃないんですけど、それが面白いので想像が膨らむんですよ。例えば、数ある説のなかに、中国服を着ていてかつ肉体的にも強いので、キョンシー*6説っていうのがあるんです。


──あぁ、ありますよね。龍の化身なんていう説もあったと記憶しています。

ake:そのキョンシー説が個人的に凄く好きで。例を出すと、美鈴って昼寝キャラってよく言われるじゃないですか。あれは実はそうじゃなくて、キョンシーなので見張ってるときは身動きひとつとらずに、それこそ死んだように立ってるからそう見えるんじゃないか、とか。一見ただのネタにしか見えない描写でも、キョンシー説だとそんな風にシリアスな説明づけができる、という。こんな感じで、美鈴は不明なところの多いキャラなので、色々考察の余地があって好きですね。あーでもメディスンも結構お気に入りなんですよね…動画に登場させたのでスーさんにも思い入れありますし…やっぱりメディスンが一番かなぁ…(笑)。


──キャラにしても、考察が色々できるのが好きなんですね。

ake:そうですね。僕は二次創作大好きな人間なので。東方に関しても、キャラの設定とか片っ端から見て色々想像しますし。でもそんな感じなので、「このキャラが嫁!」みたいな感覚は僕にはないんですよね。そう言う意味でのお気に入りのキャラクターっていうのはいないと思います。


──二次創作好き、ということですが東方以外で以前に二次創作をされたことは?

ake:あぁ、それはないんです。こういう活動を始めたのも東方が最初ですし、作品自体も東方のばかりよく見ますね。絵自体も東方で固定されている感じです。


──ニコニコ動画では東方の他にお好きなジャンルはありますか?

ake:実況動画は見たりしますね。スパーク*7さんが特にお気に入りです。あとは歌ってみたとか。その中でも、ニコニコに投稿されているラップはよく聴きます。らっぷびと*8さんやタイツォン*9さんとか。特にらっぷびとさんは、ナポリタン東方3のEDに東方のアレンジラップを使わせて頂いたくらいで、好きな人ですね。今はちょうどLOLI.COM*10さんの『ワールズエンド・ダンスホール*11ラップを聴いてみてますけど、この方のもかなり良いです。ラップっていうだけで色々聴いてるんで、自分の中でちゃんと善し悪しが判断できてるのかわからないんですけど(笑)。韻踏んでるだけで気持ちいいと感じちゃいます。


──ニコニコ動画以外で創作作品を見られたりすることはありますか?

ake:兄が京アニ*12大好きなので、流行モノのアニメは一緒に観てたりしてます。でも今は基本的に、暇があると絵を描いているので本とかを読む時間が全然ないんですよね。動画とかだと絵を描いている間に見れたりするので、手書き動画や実況動画はよく見るんですが。同じ理由でpixivもほとんど見れてないです。一時期は巷で人気の小説類を読みあさっていたんですけどね。特に『告白』*13という作品は参考にさせて貰ったところが大きいです。


──私も読んだことあります。映画も拝見しました。

ake:あれを読んで、自分の作品作りの方向性が決定しましたね。それ以前からだいぶどういうモノを作るかというのは固まりだしてたんですけど。『告白』って、あの人の怖い発言でぷつっと終わるじゃないですか。その後の後日談とかがなくても成立していて、こういう形の物語が僕に合っているなと改めて納得しました。ナポリタン3では特にそれを生かした話作りをしてます。謎を提示してそれを推理してもらうというミステリ的な側面はあるんですけど、最終的にそれがオチではない、という。easyを例に出すと、みすちーが食べられたんだろ?っていう謎かけの答えは視聴者の方もあっさり出たと思うんです。でも、話のオチはメディスンとスーさんで、最終的に煙に巻くようなよくわからないものになっていますよね。そういう予想の斜め上を行く、しってやったりな作品を作りたいなとは思っています。


──その他に、作品作りに際して影響を受けた方っていらっしゃいますか?

ake:東方手書き動画だと、先ほども挙げさせてもらった村上さんの作品は動画作りの参考にさせて貰ってます。ニコニコ動画に投稿されている作品で、シリアスかつあれだけのクオリティの動画ってそうないので、これを参考にすればまず間違いはないだろう、と(笑)。字幕ですとか、こういう感じでも成立するんだって感じで演出に関して色々勉強になりました。


『しばらくして、兄は気づいてしまった……』


──動画を作る前から絵は描かれていたんですか?

ake:描き始めたのは2,3年くらい前からですね。以前から落書きとかはしてたんですけど、本気で描き始めたのは、兄からお古のペンタブを譲りうけてからです。


──お兄さんも絵を描かれている方なんですか?

ake:はい。pixivでサマーっていう名前で活動してます。兄は小学校の頃からずっと描いてますね。


──akeさんの絵が厚塗り志向なのに対し、サマーさんはいわゆるアニメ塗りですよね。

ake:兄曰く、ストレス解消の手段としてゆるくやってるから、あんまり気合いいれて描きたくないらしいんですよ。だから背景無しのキャラ絵が多いという。僕とは真逆なんですよね、僕は背景しか描きたくないと思ってしまうので(笑)。


──絵を描いてきたのは、やはりお兄さんの影響も大きいんでしょうか?

ake:20歳までは、兄がずっと描いてきてるのを見ていたので、絵っていうのは小さい頃からやっていないと上手くならないものだろうと、何の疑いもなく信じてたんです。兄が描いているから、自分は描く必要がないというか…ずっと描く気もなかったんですよね。ずっと描かなかったのも、最近になって描き始めたのも、どっちも兄がきっかけですから…本当に良くも悪くも影響は大きいですね。


──以前にも挑戦しようとしたことはあったんですか。

ake:そうですね。『ぷよぷよフィーバー!』*14っていうゲームがあるじゃないですか。あのゲームのキャラクターの絵柄に凄く憧れて。でもあれをずっと描き続けても上達しないんですよね。リアルに立体的に描ける人が、崩して描いているから成立するわけで。


──当初の絵もまったく公開はしていなかったんですか?

ake:そうですね。ナポリタン東方が、初めて人に見せた絵になります。デフォルメ絵ばかり描いてリアルに描こうとしてなかったので、数年前まで僕の絵って本当に下手だったんですよ。ペンタブを持ってからリアルに描くようになっていきましたね。今でもデフォルメには少し未練があったりするんですけど(笑)。東方の絵師の方だとルート*15さんもそうですし、くずぎつね*16さんはデフォルメ絵を描き続けてめきめき上手くなられてる方なので憧れますね。


──それにしても絵だけを拝見したときは、ご兄弟とは気づきませんでした。

ake:わかんないですよね(笑)。こんな機会がなければずっと言うこともなかったかもしれないです。ツイッターでも他人のふりをして接してるので。僕が絵を描いていることに兄が気づいたのも、動画を投稿してからちょっと経ってtwitterを始めたときですからね(笑)。


──そうなんですか!てっきり絵や動画についてもお兄さんのアドバイスがあったのかなと思っていたんですが。

ake:全部自分で勝手にやりました(笑)。twitterのほうをフォローしたらさすがに気づいたみたいで、「おい、動画ってなんだ」って部屋に飛び込んできて(笑)。それからは、絵についても色々言ってきて、お前のはここがおかしいって十数カ所くらい指摘されたりしました(笑)。


──けっこう指摘されましたね(笑)。

ake:兄はデッサンはかなりやってるのでそういうところはちゃんとできてますからね。自分自身でも、動画のコメントで「肩の位置おかしいよね」とか指摘されてるのでわかってはいるんですけど、あんまり改善する気はないんですよ。


──確かに、このちょっと狂ってる感じがこの作風にまた合っている気がします。

ake:ぎこちない感じなんですよね。スムーズに描けるようになると、この絵柄だと逆に気持ち悪いんじゃないかなと思ったりはします。上手くなるより個性出すほうでやっていきたいなーと思っているので、たぶんこのちょっと変な感じは直らないですね(笑)。ずっとペンタブでしか描かないから、アナログでは全然描けないし。


──やっぱり目につくのは髪の描き方ですよね。

ake:僕的には、ふちを黒で描くほうが逆に難しいと思うんですけどね。兄の描き方とか今でも全然わからないですし。それなら毛を一本一本描くほうが全然楽だなぁって思います。この絵柄もちょっと変わってきてるんですけどね。ナポリタン3からは鼻の穴も描くようになってます。


──ナポリタン東方では、やはり慧音が癒しポイントですよね。

ake:慧音はですねー、髪の形間違えたなぁと今でも思います(笑)。慧音だけは本当に描きにくいです。僕は髪のふちを描かないので、白髪のキャラが白い背景にいると髪が溶け込んじゃうんですよね。だから慧音先生描くのすごい苦痛なんですよ(笑)。あとは、ストレートなのも描きにくい一因ですね。僕の描く髪って毛先がたくさん見えるクセっ毛だと割と綺麗に見えるので、東方は多くのキャラがクセっ毛属性持ちだからやりやすいんですけど、たまにいる長髪ストレートなキャラは本当に描けないですね。だからナポリタン3から、開き直って完全なクセっ毛になりました(笑)。


──でもクセっ毛化したキャラもみんな可愛いですよね。コメントでも好評ですし。

ake:ありがたいですね。動画作るまで人に絵を見せたことがなくて、これ本当に良いのか?って何度も自問してたので、ああいう反応をいただけてぱぁっと霧が晴れた気がしました。あ、話変わるんですけど、僕人形大好きなんですよ。


──ほう。

ake:だからと言うワケじゃないですけど、ナポリタン3では魔理沙人形の描写にもけっこう気を使いましたね。キスシーンはちょっと違うかな、とは思うんですけど、全般的に人形らしい、無表情が様になる魔理沙人形を描けたかなぁと思ってます。それだけに、トイレの前で立ってるシーンで「手が雑」とかコメントされたのが未だに悔しくはあるんですけど(笑)。自分でもここ気づいてなかったです。


──無機質な感じが伝わってきますよね。

ake:自然に人形ぽくなった、という面もあるんですけどね。本当は写真のような立体的な絵を描きたいんですけど、まず基本が出来てないので、僕が人物を描くと二次元のデフォルメ調の絵を立体的に描いたって感じになっちゃうんですよ。なので自然と人形みたいな感じになるんですよね。それが個性にもなってるかなとは思うんですけど。


──絵を描く上で参考にされたモノはありますか?

ake:一応、デジタル絵の描き方、みたいな本は購入して勉強したりしましたね。それ以外はほぼ独学です。個人的には、そばかす魔理沙の人*17のような絵を描きたいなぁと思いながら練習していました。


──そばかす魔理沙の方ですか!なるほど…。

ake:絵を描いている人共通の感覚だと思うんですけど、自分の憧れの絵師の方がいても、その人と絵柄をそっくり交換したいか、って訊かれると、それを肯定することってあんまりないと思うんですよ。僕もそうなんですけど、唯一そばかす魔理沙の方の絵柄なら、めちゃくちゃ交換してもらいたいですね…相手からすれば迷惑この上ないと思いますけど(笑)。


『ここはとある幻想郷』


──作品を作るまでにはどれくらい時間をかけていますか?

ake:下準備も含めると、第一回を投稿するまでに半年くらいかけてますね。投稿する数ヶ月前までは、兄に描いてもらえないかなぁと思っていたりしたんですけど(笑)。でも兄の絵柄だと雰囲気が全然合わないよなぁと勝手に自分の中でボツを出して(笑)、自分で描くしかないよな、とかなり練習しましたね。それまでは本当に下手だったんですけど、なんとか人に見せられるくらいにはなったかなぁと自分では思ってます。ニコニコ動画ではこういう系統の東方手書き動画ってほとんどなかったので、需要が全然ないのかなぁとすごくビクビクしてたんですけど、出してみたら嬉しいコメントをもらえてほっとしましたね。


──作画枚数はどれくらいですか?

ake:1は静止絵+字幕形式だったのでそこまででもなかったんですが、途中から漫画形式にしたので枚数はかなり増えましたね。2は使い回しもあったんですが、3はそういうのも無かったので50,60じゃきかない枚数描いてると思いますね…。


──作品を作る上で心がけていることはありますか?

ake:あえて全然あわないモノをくっつけるというか、チープなものを持ってくる、というテーマはけっこうありますね。みすちーが喰われる」*18とか「アリスはいつも通り」*19とか本来はギャグじゃないですか。そういうシチュエーションをあえてシリアスでやってみる、という。


──ただシリアスなストーリー、というのとは違う感じなんですね。

ake:例えばアリスなんですけど、普段は「アリスはいつも通り」っていうネタでいじられることが多いですけど、シリアスな長編の話になると、だいたい原作寄りなできる女アリス、というキャラとして描かれることが多いじゃないですか。シリアスで「いつも通りのアリス」っていうのはあまり見ないんですよ。これはねらい目だなとは思いましたね。


──「アリスはいつも通り」は基本的にコメディ率が高いですからね。そういうチープさもそうですが、ナポリタン東方はホラーなストーリーの割に小ネタも結構多かったりしますよね。

ake:特にナポリタン3はそうですね。というのも、2では全編ホラーな調子で作ったんですけど、3はシナリオの関係で2みたいな感じにはできなかったんですよ。2のようなホラーな動画を想像している人に変な期待をさせるのは申し訳なかったので、序盤からネタを挟むことで、2とは違う趣向ですよというのをアピールしたかったんです。


──なるほど。

ake:だから絵のほうもどことなく、完璧シリアスという感じではないんですよ。これは自然にそうなったんですけど、なんとなくチープな感じになりましたね。


──ナポリタン3が投稿されて、色々とシリーズの企みが明るみになってきたような気がしますが…。

ake:さあどうでしょう(笑)。


──色々意見も出てますよね。3で描かれた慧音の笑みが意味深だ、とか。

ake:あ、自分では怖く描く気はなかったんですけど、ちょっと目を光らせ過ぎちゃいましたね。


──あれは意図しないものだったんですね。

ake:3、つまりnormalも色々ネタは考えていたんですよ。最初は魔理沙=人形をオチに持ってきた長編にしようと考えていたんですが、魔理沙が人形っていうのは瞬殺でバレちゃったんですよね。キャスト紹介で魔理沙がいないことにもすぐ気づかれてしまいましたし。


──私は全然わかってなかったですその辺(笑)。

ake:そもそも、ナポリタン1を投稿した時点で、こんなに受け入れられて考察もされるかどうかわかっていなかったので、どれくらい経ってから問題の解答が出されるか未知数だったんですよね。もし考察されなかったらただの変な動画で終わってしまうので、少しでも目についてもらえるように絵だけでも自分の全力を出そうと思って作ってましたし……結果的にはありがたいことにたくさんの人に受け入れてもらえたんですが、そのおかげですぐ解答は出ちゃったので、バレたあとでどう話を作るかっていうのは結構ネックになったところでした。


──問題の答えはだいたい出てきている状態なわけですからね。

ake:ようするにナポリタン3で描きたいことは、M-1の音声を使用したあのラストだけで、あの部分だけでも話は通じるじゃないですか。でもそれじゃ短すぎて面白くなかったので、そこから膨らませて10分くらいの話にするのはかなりきつかったです。とりあえず、序盤から出しておいた阿求の伏線をここで回収しておこうかな、と思って彼女を再登場させました。


──連続で登場することは初めは決まっていなかったんですね。

ake:あとは、ナポリタン1で霊夢やにとりの人形を描いておいたのでそのことも。アリスが恋敵の人形を何のために作ったか…と言えば良いように使うわけはなくて、実際にアリスはナポリタン3でその人形を釘で穿つんです。例え自分の作った人形でもそんな風に扱うということは人形にそれほど愛はない、つまりはアリスは魔理沙人形自体に愛を感じていない…という伏線のために霊夢やにとりの人形を描いておいたんですが……でもそんなところを気にして観てる人も別にいなかったですし、それを回収するための話を作って動画を伸ばすのもけっこう大変でしたね(笑)。


──個人的にちょっと思っていたことがあって、ナポリタン3でみすちーが登場しましたが、2ではみすちーはお話の登場人物として殺されていますよね。このお話ってようするに、慧音が生徒達に語っている話なんですよね? いくら創作話とはいえ、自分の生徒達をネタにした残虐話を教師が聞かせるか?ってちょっと不審に思ったんですけど。

ake:それもコメントでありましたね、「なんてものを見せてるんだ!」って。もちろんそこに何かがあるのか、それともないのかは今後に関わることなので言えないんですが(笑)。でも、僕もけっこう考え無しで作ってるんですけど、全然考えていなかったところにもナイフのような鋭いコメントをいただきます。ナイフ繋がりで言うと、ナポリタン3で、魔理沙が人形に腹を刺されるじゃないですか。ここで、ナイフが刺さってる方向が上向きなんですよね。手で刺したのに上を向いているのはどういうことだ、刺した後すり抜けるんじゃないか、とか考察のコメントをいただいていたんですが……さすがにそこまでは考えてなかったです(笑)。動画を観てると、皆さん伏線じゃないところを伏線だと考えるのが上手すぎます!って思いますね。


──akeさんの絵柄が深読みしやすいっていうのもあるのかもしれないですね。そこに何かがありそうな気にさせる絵というか。

ake:考察するために背景の隅から隅まで観て頂けるなら、力入れて描き込まないとなとは思いますね。


──皆さん少ない材料で推理しているので、どれも何かの糸口に見えるのかも知れないですね。

ake:僕は、一つの一次設定から二次設定が生まれてくるって本当にいいなぁと思っていて。みんなの頭を経由して新たなモノが生まれてくるっていうんですかね? ナポリタンの考察を観ていると似たようなモノを感じられてすごく幸せな気持ちです。設定を補完して解釈が広がっていくという、東方の流れを僕自身が正面切って受けてる気がしますね。ちょっと大袈裟な物言いかも知れないですけど(笑)。


──それがもっと発展して、誰かがナポリタン東方の自分解釈のオチを作って投稿したりしたら…。

ake:もしそんなことがあったらめちゃくちゃ嬉しいですね。そんなに出来た話でもないですけど(笑)。


『人気メニューは……ナポリタン東方……』


──次に控えているのはhard1ですが、何かお話できることがあれば。

ake:妖怪は妖怪っていう感じで描こうと思ってますね。今まではちょっと自重していたところもあるんですけど。原作の東方キャラ達は人間とあまり変わらない姿をしているだけに、ちょっと変わった感じで描いていくつもりです。実はナポリタン3でも、アリスをもっと人間から遠ざけようかなと考えていたんですけど、元々アリスは人間だったということであまり妖怪らしくはしませんでした。でもナポリタン4では、地霊殿の面々をかなり人間とは違う外見で描くつもりです。日の光を浴びていないので、肌の色を白くしたりとか。ナポリタン3でも人形は人形のように描いたので、人間ではないものは差別化しながら描きたいなぁと思ってますね。


──やはりhardだけあって難易度も高くなってきてるのでしょうか?

ake:これはオチまで読めたら本当に天才だと思います(笑)。問題の答えはそうでもないかもしれませんが、解答の後の話は僕の権限が効きまくるので難しいとは思いますけど。でも以前から準備していたものを出しても良さそうな感じなので、それで驚いて貰うつもりです。


──つまり、ナポリタン3のように解答を受けてのストーリー作りではないんですね。がんばれば解き明かせるかもしれませんよ皆さん!

ake:どうですかね…でも全然制作進まないです(笑)。


──すべての絵が全力でこれほど描き込まれていますから、そうとう時間がかかるとは思います。

ake:イラスト歴がまだ数年なので、描くスピードも長年やってる人に比べると本当に遅いんですよね。描く線もなかなか決まらないので何度も言ったり来たりを繰り返してます。もう少しお待ち頂けると幸いです。


──期待しております! ナポリタン東方以外には、なにか作品を制作される予定はありますか?

ake:うーん、投稿する前は色々考えてたんですけどね…。何も思いつかなかったらシュールな4コマ漫画を投稿しようかな、とか考えていたんですけど、ナポリタン東方のネタを思いついたことでそっちはオシャカになりましたし(笑)。今は、別のモノ作る暇があったら少しでもナポリタンの続きを描くことに専念したいですね。ナポリタンの回答が求められているものなら、他のはもういいやって思ってます。動画を投稿する前は、音楽PVとかも色々作ってみたいなぁとは思っていたんですけど、僕が必要とされているのがナポリタンなら、それだけをやっていきたいなぁと思いますね。


──それでは恒例になりましたが、これから作品作りをする方に一言お願いします。

ake:そうですね…僕はナポリタン問題に出会ったときの衝撃を東方に置き換えてやってるだけなので、別に大したことはしてないんですよね。皆さんも仰ってることですけど、これ面白い!と思ったものをやると、自然と個性って出てくるものなんじゃないかな、と思います。あとは、自分の欠点をあまり悪く思わず個性だと思って開き直ることですかね…。ニコニコ動画ではコメントで色々指摘してくれるので、自分が欠点だと思っていたところが、人からはこんな風に見えているのか、ということもわかりますし。自分の作ったモノがコメントによって個性が固まっていく様を僕も実感してるので、あまり気負わず面白いと思うことをやるのが一番だと思いますね。そんな感じ、です。


──ありがとうございます。長丁場のインタビューになりましたが、お疲れ様でした。

ake:お疲れ様でした!


(2010年10月22日/11月29日収録)
(文責:げんきゅー)

次回予告

次回は地霊殿メンバーの珍道中を描いた『つちぐもとはしひめ』の作者・葛の葉さんが登場予定! こうご期待!

*1:鈴木光司の小説『リング』に登場する少女の怨念。呪いのビデオを再生することによってTVから抜け出てくるその強烈なインパクトは後のホラー作品にも強い影響を与えており、パロディの題材としても使われることが多い。

*2:同人音楽サークル『いえろ〜ぜぶら』が制作している東方二次創作作品。M−1グランプリのパロディであり、毎年幻想郷の中から選ばれたコンビが、幻想郷の漫才の頂点を目指して戦いを繰り広げる。第2回までは音声のみだったが、第3回からは動画作品として分布されており、ニコニコ動画においても人気の高い作品

*3:東方手書き作者。代表作に『東方十代録』『やうですシリーズ』など。ギャグとロックを織り交ぜた展開と、ジョジョとショートカット愛に定評がある

*4:東方手書き作者。フルネームは村上4時。代表作に『博麗霊夢は金が欲しい』『RedNightGirls』など。シリアスとギャグをほどよく織り交ぜた、巧みなシナリオ構成による魅せる長編作品を制作している。東方見聞録第5回ではインタビュイーとして出演!

*5:村上4時氏の東方手書き動画第二作。冬の妖怪として知られるレティ・ホワイトロック。彼女が冬以外の時期はいったい何をしているのか疑問に思ったチルノと魔理沙は、去っていく彼女の後をつけていき…。大胆な設定を用いつつも、丁寧な心理描写でキャラクター達のやりとりを描いた氏の名作

*6:中国の妖怪の一種。埋葬前の死体を室内に置いておくと勝手に立ち上がり生きているかのように動き回る、という中国版のゾンビとも言える妖怪。現在広く知られているイメージは『霊幻道士』などの映画のオリジナル設定によるところが大きく、古来からの言い伝えとは食い違っているところが多い

*7:ゲーム実況プレイヤー。代表作に『デビルメイクライ4 お緩り実況プレイ』など。関西人らしいツッコミと編集の力のいれ具合に定評がある。マリオカート実況での暴れっぷりから『破壊神』の異名を持つ

*8:ニコニコ動画で活動している歌い手。代表作に『God knows...【Rap-bit ver.】』『空想ルンバらっぷ』など。歌い手としては珍しく、歌ってみたではなく音楽カテゴリで活動しており、日本語ラップのほか、既存のアニソンをラップ調にアレンジした作品を多数制作している。2009年からはメジャーデビューもはたし、プロのラッパーとしても精力的に活動中

*9:ニコニコ動画で活動している歌い手。代表作に『チーターマン2をラップ調で歌ってみた』『タイツォンがローリンガールを歌うとこうなる』など。山口勝平調の声をはじめ、様々な声色を使い分ける歌い手で、歌う際にはフタエノキワミなどのネタをしこむことも多い。らっぷびと氏とはかねてからの友人で、コラボ楽曲を制作したりもしている

*10:ニコニコ動画で活動している動画投稿者。主に音楽系の活動を行っており、時に歌い手、時にボカロP、時に愉快な人として様々な活動を行っている。代表作に『本当に大事なのはひとつだけ(ボカロ作品)』『「メルト」を1ミリも知らない俺がメロディを想像して歌ってみた(歌ってみた作品)』など。ストーリーも1ミリも知らないアニメをアフレコする、『ミリしらシリーズ』の立役者としても知られる。

*11:ボカロ楽曲。作者はwowaka(現実逃避P)氏。氏曰く「狭い部屋で踊れるような曲」を目指した、とのことで、wowaka氏初のダブルミリオンを達成した人気作

*12:京都アニメーション。アニメ制作会社の一つ。代表作に『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『けいおん!』など。細部に拘った丁寧な作品作りで知られ、ヒット作品も数多い

*13:作者は湊かなえ。娘を自分の生徒に殺された中学教師の復讐と、歪んだ生徒達の狂った日常を描いた長編小説。筆者のデビュー作でありながら、本屋大賞をはじめ数多くの賞を受賞し、2010年には映画化もなされた

*14:落ちモノパズルゲームとして知られる、ぷよぷよの新シリーズ。コンパイルが制作していた元々のぷよぷよに、フィーバーモードなど新たな要素が導入されたもので、SEGAへ版権が移った後はこちらのシリーズをベースに制作されている。特徴的なデフォルメ絵によるキャラクターデザインは人気が高く、既存のキャラクターをぷよぷよフィーバー風に描いてみた、というパロディイラストも数多存在する。

*15:絵師。pixivを中心に活動しており、東方projectの二次創作絵を主に投稿している。デフォルメを利かせた絵柄が特徴で、最近の作品はぷよぷよフィーバーを彷彿とさせる画風で描かれているモノが多い

*16:東方手書き作者。代表作に、『八雲「ぐるり幻想郷一周の旅」』など。可愛らしいデフォルメ調の絵で、ほのぼのとしたお話を描く。もふもふ好きなケモナーとしても知られ、pixivでは東方キャラをケモノっぽくアレンジしたイラストなども多数投稿されている。

*17:東方手書き作者。代表作に『【東方まんが】魔理沙が海に行きました』『【東方まんが】輝夜が頑張りました』など。リアルタッチの濃い絵柄で、カオス極まる展開と原因不明の疾走感を併せ持つ、ショートストーリー動画を多数制作している。アレンジャーとしても活動しており、手書き動画のBGMも自分で制作しているほか、アレンジ楽曲を単体で投稿することも。名前の由来はその名の通り、そばかすのある特徴的な魔理沙を描くことから

*18:二次設定のひとつ。永夜抄におけるミスティアの会話で、幽々子が彼女を食料としてみているような発言をしたことから生まれた。大食いキャラのイメージが付いている幽々子との相性抜群なネタのため、二次創作においてミスティア幽々子を絡めるときには必ずと言っていほど取り上げられる

*19:二次設定のひとつ。魔法の森で一人静かに暮らしている印象が強いからか、二次創作では暗い性格、友達がいないといったキャラに仕立て上げられることが多く、また魔理沙とのカップリングにおいてはそれから発展して、ヤンデレ・変態的な要素が付加されることも多々あることから、「この作品では他の奴はこんな感じだけど、アリスはいつも通りだな」という意味あいで用いられる。もちろん、「いつも通り」というのは二次創作における呼称にすぎず、原作のアリスははぶられていたりストーカーだったりするわけではない