第12回―2 野田文七さん&こゆびさん(東方SS作家、東方手書き作者)


野田文七 【のだ・ぶんしち】
東方SS作家。熊本県在住。
2008年、東方二次創作専門SSサイト・東方創想話に『カナリア幽明録』を投稿。
2010年からは、設楽秋氏と共に合同サークル『秋の七草』で同人活動を開始。後に個人サークル『劇団文七』に活動を移し、以降も精力的にSS作品を発表中。一処の世界を舞台とした、淫靡で壮大な伝奇小説を得意とする。
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こゆび
東方手書き作者、同人作家。
2009年に合同サークル『ラッコ堂』にて初の同人誌を頒布。
2010年に『打開絶招紅美鈴』の表紙絵を始めとする、『秋の七草』作品でイラストを手がける。
その後、野田氏のSS作品『水蜜桃』『二兎を追え』のコミカライズにおいて作画を担当。現在も次のコミカライズに向けて準備中。
細やかかつダイナミックな作画での、ストーリーの昇華に定評がある。
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こちらは後編です。お二人それぞれにお話をきいた前半はこちら

鼎談というか対談


――というわけで、ここからはお二人を交えてお話をお聞きしたいと思います。お二人同時にインタビューするというのは初めての試みなので、慣れない点はあるかもしれませんが、よろしくおねがいします。
こゆび:よろしくお願いします。
野田:よろしくお願いします。そういえば、こゆびさんネーム見たよ! いいじゃん、少ないページ数でベストな見せ方だと思うよ。
こゆび:あ、ありがとうございます(笑)。セリフとか色々カットしちゃったんですけど。
野田:いやー正直僕も、2,3年前の原稿なんでよく覚えてなかったんだけど、よくまとまってると思う。お燐の美体が本編より脚色されててすごい良かった!
こゆび:お燐のいやらしさが出たんじゃないかなーと自分でも。
野田:猫っぽいくにゃっとした体つきとかね! 本になったときどうなってるか楽しみ!こゆびの名前をとどろかしてやろうぜ!


――すいません、インタビュー始めてもいいですか(笑)。
野田:ああ、ごめんなさい、話が脱線したね(笑)。


――動画、そして同人誌で公開された『水蜜桃』そして『二兎を追え』。この2つは、野田さんが執筆されたSS作品を、こゆびさんが細やかな筆致でコミカライズされた作品なわけですが、成立するまでにどのような経緯があったのでしょうか。
こゆび:最初にやらせてもらったのは、『打開絶招紅美鈴』というSSの表紙でした。元々ニコニコ動画でkamSさんの動画を見せていただいていたんですけど、その中の「君恋し、こいし」っていう作品が、二次創作小説を受けて作られたものだとしって、最初驚いたんです。それまで、東方に絵以外のモノがあることをほとんど意識したことなかったんですよ。読んでみたらそれがまた面白くて。それで、野田さんのpixivのページもお気に入りに入れたんですけど、そしたらすぐにお気に入りを返してもらえたんです。
野田:その時の僕は自分をお気に入り入れる人を鵜の目鷹の目で見てたからすぐにこゆびさんのページにも飛んでいったんだよね。


――行動が早いのはその頃からだったんですね(笑)。
野田:またそこにあった美鈴のイラストが、僕の好きなストリートファイター3 3rd strike*1のイメージによく似てたから、こういう人に絵を描いて貰いたいなーと淡い期待を胸にお気に入り登録を僕も返して。それからコメでやりとりしつつ。こゆびさん、僕のコメントに対してすごくレスポンスが良かったから、これ誘ったら何か描くんじゃね?とか思って。そういう打算のもとで表紙の話題をふった感じだね(笑)。
こゆび:僕もコメントなんてめったにもらわないのでテンション上がっちゃってついつい返事してました(笑)。
野田:僕も表紙描いてもらうなら、僕自身その絵をみてやる気になるような絵が良かったからね! こゆびさんはそういう意味ではドンピシャだった。ソーシャルネットワークはやっぱ凄いなぁとそのときは思ったね。金銭やコミュニケーションのトラブルがよく言われるけど、つながりは持てるわけだからね。そういうところは利用させてもらわないと。
こゆび:悪い面だけピックアップするんじゃなくて、良い面を利用させてもらうというか。
野田:車だって、見方を変えれば高速で走り回る殺人道具だからね(笑)。悪い面だけ見たらあんな危険なものなんでのさばらせてるんだって話だから。


――その後も何度かこゆびさんは『秋の七草』の作品のイラストを担当されていますね。
野田文七:僕自身は『ス解体シキ君たちに夢のスープを』とか『ダルマパチュリー』のあたりは要領も悪くて、執筆のペースを全然つかめてなくて。いたずらに時間だけ流れて、一ヶ月かかっても全然書けてなかったんだよね。
こゆび:あの時は野田さんも同人始めてまだ間もなかったですよね。
野田文七:あの頃は下手やったねー。時間に対する体勢が全然うまくなくて。人はいっぱい来てくれてたんだけど、あの時は辛かった。悪い数字ではないはずなんだけど、メンタル面の操作が下手で、帰りに本のぎっしりつまった3箱分のダンボールを秋さんと手持ちでもって帰って……苦い思い出だね。あの経験があったからイベントで大抵の失敗してもまあ大丈夫にはなったけど。
こゆび:『ダルマパチュリー』のときは、「グロは需要ないのかな」みたいなことつぶやいたら、kamSさんに「あるわけないじゃないですか」って突っ込まれてましたね(笑)。
野田:でもアレ気に入ってくれた人もいたからね! あの作品キッカケで出来た人脈もあるし!


――何が幸いするかわからないものですね(笑)。
野田:いやほんとに! 順調というわけじゃないけど、回数は裏切らないよ。やればやるほど色々その分得るものがある。何が幸いするか……っていうのだと、『水蜜桃』のコミカライズもkamSさんと話してるときに思いついたんだよね。
こゆび:2011年の例大祭が延期になったとき、野田さんもう東京に来ちゃってて、その時にkamSさんと三人で飲みに行って、そこで話が出たんですよね。「東方SSの漫画化とかやってみたらいいんじゃない?」って。
野田:kamSさんが「描いたらどう?」ってね。
こゆび:「マジすか! …やりますか」って(笑)。「野田さんにもけっこう量多いけど大丈夫?って言われたんですけど、ぶっちゃけ何も考えてなかったです(笑)。


――kamSさんが言うとなんかお告げがきた感じですね。
こゆび:もちろん行動の早い野田さんのことですから、「じゃあ何にしようか! こゆびさん何がやりたい?」ってノリノリで。その場でもう「水蜜桃」をコミカライズすることが決まりました。動画にすることにもなったんですけど、要領わかってなかったので大変でしたね。
野田:アップロードとかも大変だったでしょ?
こゆび:大変……でしたね。動画も作ったことなかったし。こんとき漫画描くのにまだ慣れてなかったので。
野田:一二作は出してたよね?
こゆび:学生時代のも含めて10も描いてませんでした。
野田:じゃあ『水蜜桃』でトータルのページ数超えた感じ?
こゆび:超えましたね(笑)。持ち込み用に描いても30Pくらいでしたから。


――物量を経験した感じですね。
こゆび:いやほんとに物量は経験になりますよ。
野田:絵も文も物量大事よね!
こゆび:完成させるのも大事ですけどね。
野田:落書きも無意味ではないんだろうけど、不恰好でも完成させるの大事よね。出来ました、どっからでも評価かかってこい!って提出すると違うもんね。
こゆび:こういう長いの描いてると自分の限界にぶちあたって、そっからの勝負みたいになるんですよ。原作つきで描くのもこれが初めてだったので。『水蜜桃』は原作に合わせなきゃ原作に合わせなきゃって注意しながら、場面転換とか地の文にコマ割り合わせるのがすごい大変でした。
野田:これ原文をよーうまいことフキダシにしたよね。読んでてバランス不自然じゃなかったもんね。
こゆび:一個のフキダシにセリフいれちゃうとそれだけで萎えちゃう人もいるみたいなので、細かくわけるようにしました。一番最初に野田さんに文章は変換しないでくれみたいなことを指示されましたから。
野田:最初は言ってた(笑)。

甘くて濃いお話


――『水蜜桃』はどのような着想で書かれたのでしょうか。
野田:星蓮船を初めて見た時、一番気に入ったキャラクターは白蓮だったのね。彼女を表現するにあたって、当てる星蓮船メンバーを誰かと考えると、まず一輪は聖を姐さんって純粋に慕ってて綺麗なイメージがあったのね、実際はどうかわからんけど。星は濃いものを抱えているんだろうけどオブラートに包んでいるところがあるし、ナズーリンは一定の距離をとってるし。
そう考えていくと、命蓮寺のメンツで、「聖大好き!」っていう、直の感情を出すのはムラサだろうと。で、聖とムラサで話を考えるとなると、聖が封印されてしまったことに対するムラサの執着が書けるんじゃないかと思ったのね。作中でもそういうセリフがあるから。
ということで、ムラサをちょっと偏執狂な性格にして、それと対応させる形で、「きちんと聖を好きでいよう」という秩序を護る星を立てる。けれど実際には星も獣と紙一重のところがあって、本質的にはムラサと近しいところがあって……とすると、星というキャラクタにも深みが出るんじゃないかなと。そうやって、聖を巡ってみんなパッと見は仲良くしている、もちろん仲良くしてるのはウソでもなんでもないけど、みんな底には濃いものを抱えている、というのを書きたかったんだよね。


――仲良く見える、というのは見せかけの皮というわけではないんですね。
野田:皆の濃い部分激しい部分が咬み合って今の状態に収まって入るけれど、本当は色々抱えていて。抱えてはいるけど、それぞれ仲良くやっていこうという意志自体はある、っていうね。


――『水蜜桃』、私は幻想郷の日常という感じで読んだんですが。けっこうな大事やらかしても最後にはまるく収まる感じというか。
野田:と言うと?


――『水蜜桃』ではムラサは結構なことをやらかすじゃないですか。絆を失いかねないようなことを。それでもみんなまあいいじゃんってことで丸く収まるじゃないですか。幻想郷って、日常的にこういう事が起こってるんじゃないかなって思ったんですよ。
こゆび:命蓮寺のいいところってそういうところだと思うんですよね。団結力が強いというか。紅魔館も団結力あるんですけど、そことはまた違って、軸が一本あってそれを中心につながってるというか。この場合は聖ですね。聖のためだったんだから、オールOKみたいな。



――『水蜜桃』では命蓮寺でしたけど、他の住民達においても、そういう大事が起こっても、うまく収束して、それがバランスよく成り立ってるのが幻想郷という場所なのかなと思ったんですよ。野田さんが書かれた、時系列的には過去のエピソードを読むと『ノブレス・オブリージュ』しかり、大事が大事として起こってそのまま収集がつかなくなってることばかりで。野田さんの描く幻想郷は、ハードな経験をして、長い年月を経てそこにたどり着いた人達ばかりで、言ってみれば火薬庫みたいなものじゃないですか。でもそういう人たちが揃って、水蜜桃みたいな事態が起こっても、各々が咬み合って、上手く収束して日常になる。それが幻想郷という場所の不思議なところなのかなと、読んでて思ったんです。
野田:それ面白い解釈だねえ。


――『ノブレス・オブリージュ』を読んだ後に原作をプレイすると、あんなことがあったのにみんな今はのほほんとしてて、すごく温かい気持ちになるんですよね。それもちゃんと原作と繋がりを持たせいるからこそだと思うんですけど。
野田:そうか、原作と完全に乖離させて書いてると、そういうふうには思わないもんね。嘘はついていませんよっていうか、つなげて書いてるんですよっていうのを保っているから、そういう風に思ってくれるんだと思う。


――本文から変更などはあったんでしょうか。
こゆび:一輪とナズーリンのバトルシーンとかカットしてあるんですよね。コメントでもあったんですけど、最後に一輪がムラサをなぐさめるシーンがあるんですけど、あれは二人がやりあったからこそ映えるシーンだったかなあという気も。


――私は一輪の面倒見の良さというか、姉御肌が出てるなあというふうに受け取りましたね。
こゆび:苦労したのはムラサが溶けて星が閉じ込められるシーンですね。本文読んでも映像が浮かばなくて、野田さんに聴いたんですよ。「どんな風になってるんですかね?」って。「いや僕もよくわかってないんだよね」って言われちゃって(笑)。


――小説はそういうずるいところあるんですよね(笑)。わけのわからないことを、わけのわからないまま書けてしまうという。
こゆび:原作者にそんなこと言われてしまったから、どうしたもんかなぁと思って(笑)。結局、ああいう処理の仕方になりました。
野田:今度出す『永夜回廊』でもそういうことあったね。出来上がったイラストを見た時に、ここまでびっちり細かく、華麗なイメージはなかったなあって思ったりして(笑)。ただ原文を読むと、そう受け取れなくもないのね。こういうの見ると、自分が書いた時点で作品は僕の手を離れて独立して、絵師さん達が受け取ったものを描いてるんだなあと思って。誇らしいというか、もう僕のものではなくなっちゃってるんだけど、「ああ僕の手を離れたんだなあ」っていう感覚がいいなあって思った。意図した以上のことを相手が汲み取ってくれるというね。でも最初の頃は変にこだわってて、こゆびさんにも色々指定してたねえ。気をつけるの「つ」をひらがなにするとか。でも今のグラン・ギニョールは改変もばんばんしてもらってるし。


――『水蜜桃』はなるたけ忠実に再現されてるんですね。
こゆび:セリフの改変はしないでねと指定されたので、とにかく変えないことに必死になってました(笑)。それと、小説の短所長所って、文字をカタカナとかひらがなとか使い分けられることじゃないですか。野田さんに文字指定されたとき、そこの違いにも意味があるのかなと思って尊重しました。
野田:僕はZUNさんの作品を全肯定してるけど、文章に関してはちょっと違和感ある言い回しもあって。例えば、妖怪や人間をまとめて『人』って書いたり、「〜事じゃ無い」の「ない」に漢字を使うような、そういうのが気になったりする。とは言え「人の話を聞く」みたいに「ひと」の音を使わないとしっくりこないことは多々あるんだけど、幻想郷には妖怪や神もいるから、漢字ではあまり合わないような気がして。だから、僕はそういうのを表すときは「ひと」や「ふたり」って使うようにしてます。「慧音と妹紅がふたりで立っている」みたいに。


――自分も文章書いてるので、そういうのはわかります。
こゆび:そういうのを聞いてて思い出したんですけど、漫画を描いてると、セリフが漢字かひらがなかでキャラの表情も変わってくるんですよね。
野田:ほーう。
こゆび:野田さんがひらがなにした意図のほうに表情が膨らんでいくんですよね。作ってて面白いなと思います。
野田:へえ、そこまで文章が絵に影響を。
こゆび:ありますよやっぱり。描いてる身としては、文章が全てですからね(笑)。


――この『水蜜桃』の一輪と雲山って何かカップリングとしての素振りが強い気がするんですが、そういう意図はあったんでしょうか。
野田:動画のコメントでもちょっとあったんよねそれ。
こゆび:『水蜜桃』は世界観的に、以前野田さんが書かれた『からくれない』ともつながっているんですけど、その作中で、ムラサと一輪が同居してる時期があるんです。そこを読む限り、一輪を始め、みんな聖を軸に生きているので、一輪と雲山がそういう関係ってことはないんじゃないかなぁと思って描きました。
野田:『からくれない』のときは、確かにそういう書き方はしなかったね。ただ一つ言えるのは、『からくれない』は一輪がムラサに言い聞かせてる話なんよ。逃げを打つような感じじゃあるけど、一輪が話してるわけだから、事実とは違ってても問題はなくて。『からくれない』時点でのムラサと一輪は初対面みたいなものだったから、その辺隠したかもしれないし、とりあえず『からくれない』での話なら、嘘をつく余地はけっこうあるんよね。


――なるほど、そういう解釈を反映することはできるんですね。
野田文七:実際、今の僕は『からくれない』書いてたころの自分の書き方にちょっと納得できてなくて、もうちょっと一輪の過去を面白く書けたよなぁとも思ってるんよ。だから『からくれない』でのあの話は、まったくウソではないけれど、一輪の願望も少し入った事実とは似て非なる話という捉え方をしてる。それが、すぐに一輪雲山夫婦説につながるわけじゃないけれど。


――別に夫婦仲みたいなのを意図はしてなかったんですね。
野田:これまでそういうのは意図してこなかったね。ただそういう風に受け取られたのは、こゆびさんがそういう風に描いたってことなんだから(笑)。
こゆび:個人的にはあの二人は仲の良い相棒って感じなので、カップリングまではいかないです(笑)。


――それを穿った読者たる私が歪んで受け取ってしまったわけでですね(笑)。でも一輪雲山で、そういう夫婦仲みたいな関係って意外と見ないので、それもちょっとは面白いかなーとは思ったんです。
野田:あの二人にそういう濃い関係があってもいいかなぁとは思うね。


――『水蜜桃』は動画では見れますけど、本はすでに頒布終わってるのですっけ。
野田:またリバイバルで出したいね。以前のは表紙のデザインテキトーだったし。
こゆび:僕がデザインの知識皆無だったので(笑)。最初の打開絶招も別の方にやってもらったし。
野田:リバイバルするんなら、欲を言えば原作でカットされたシーンとかも入れたいなあ。でも漫画における加筆修正って、小説と違ってその時期の勢いがあるからねえ。こゆびさんは気になるところを修正したいと思うんだけど、そうすると過去と今のこゆびさんでチグハグになって際限がつかなくなるし、難しいね。それに、過去作にエネルギーを費やすことによって新作にどれくらい注ぎ込めるかってところも問題だし……ZUNさんも、旧作のリメイクとかに手を出さないのって、新しいゲームとか新しい音楽とかそっちのほうに考えを及ぼしたいっていうのがあると思う。
こゆび:ZUNさんもあんまり昔のものに頓着しないですもんね。
野田:ZUNさんは好きにやってるもんね。限られた資源を新しい方向に振り分けていこうという考え方。
こゆび:『水蜜桃』はオリジナル入れてるのでそっちのほうでもチグハグになりそうですもんね。
野田:ああ、あのピッコロ大魔王*2とかね。
こゆび:あのひとはもうそれ呼ばわりなんですか(笑)。


――『水蜜桃』ではエンドカードが毎回ついていましたね。
こゆび:そうなんですよ、超豪華な。これもまた野田さんの行動力のなせる技ですよね。僕の知名度エンドカードが釣り合っていないというか……。


――いやいやいや。
こゆび:動画普通に見てた頃は、この人達の動画を見て楽しんでましたから。それが知り合うことになるとは……。ヨエコスキーさん*3のたまごとじなんて何べん見たかわかりません。あれがキッカケでCD買いましたから。こーへーさん*4や、葛の葉さんにはまだお会いしていないので、直接会ってお礼言いたいです。嬉しかったのは生パンさんに曲をもらったことですね。生パンさん凄い好きだったんですよ。絵はカオスだけど曲は普通にかっこよくて。エンドカードを描いてもらえた上に、曲まで作ってくれて。


――あれは水蜜桃のために書き下ろされた曲でしたもんね。まさにこゆびさんのために作った曲という。
こゆび:いやほんと嬉しかったですね。

『彼』にまつわる想い


――続く『二兎を追え』はどのような経緯で?
こゆび:『水蜜桃』が本来は一冊で紅楼夢に出す予定だったんですが間に合わなくて、前後編で分割して出すことになっちゃったんです。それに結構落ち込んでて、冬コミ終わったあと「ああ、もう野田さんから声かかんないだろうな〜」とか思ってたら、新年早々すぐメールいただいて(笑)。「以前絵を描いてもらった『打開絶招紅美鈴』に入ってる『二兎を追え』をリメイクしたいんだけど、そのリメイクしたのをコミカライズしない?」と。「マジかよ…」と。「〆切が夏コミ」っても言われて、「マジっすか…」って。
野田:こゆびさんは原作をまるごと絵にしようとしてくれて、それで途中で折れないタフさがあるから。劇団文七の中で、このページ数を描ききれるのはこゆびさんだけだもんね。
こゆび:そうですか?
野田:他の人達も忙しかったり絵のスタイルがあるから、ページ数描けるのが偉いわけじゃないんだろうけど、僕の中では偉い!
こゆび:しょっちゅう心はぽきぽき折れてるんですけどね(笑)。『二兎を追え』も全然間に合わなかったし。
野田:でも水蜜桃もよりペースは上がってるもんね。



――『二兎を追え』はテーマ的にも難しい題材だったと思います。
こゆび:彼を――『彼』と呼ばせていただきますけど――キャラデザするときに、似せるかどうか迷ったんですよ。野田さんの原文でも、意図してその人である、とは明言していなかったので、どこまで匂わせていいのか悩みましたね。
野田:僕もやっぱり書く上で一番気を使ったのはそことよね。自分もかなり書きたかった人だったから。
こゆび:でもキャラデザ以外で表現できる技術が自分の中にあるとは思えなかったので、ある程度似せることにしました。やっぱり不安にはなりながら描いてましたけど。
野田:こういうデリケートな話題を取り扱うことで、どんな反応が返ってくるか心配なところもあったんだけど、思いのほか悪い反応はなかったよね。熱いコメントもあったし。
こゆび:「ありがとう」なんてコメントもあって嬉しかったですね。
野田:あれは熱いよねー。
こゆび:最終話作るときの支えは、まさにああいう反応でした。


――二兎を追えは対比とか構造とかも良いんですよね。
野田:それは『彼』とあの人とかかな。
こゆび:全部ですよね。咲夜とてゐ、美鈴とうどんげといった形で。


――メインの4人の関係が相互になってるんですよね。咲夜とてゐは『彼』を挟んで対比になってるし、美鈴とうどんげは使命という部分で敵対しあっていて。それでいて最後にはみんな前に進んだな!って感じなのが。
こゆび:対照的になってるキャラは心情的にもつながりがあるんですよね。野田さんの作品は読んでて心グラグラ揺らされるんですよね。うわこれ大丈夫なのかよって。でも最後は…やっぱりそうじゃなくっちゃ!ってとこに落ち着いてくれるのがたまらないですね。


――あの終わり方もいいですよね。原作の酒飲みオチにつながるようで。
野田:『メリーの悪夢』とか、そうじゃない作品もあるけどね。アレはきっちりハッピーエンドまで持っていったかというと……ね。バッドエンドは回避したけどっていう感じ。アレも一部の人はかなり好いてくれてるんだけどね。ノブレスも廟の巻なんかはちょっと救いそこねたところはあったから。ハッピーエンドと作品の良し悪しは別だけども。


――『水蜜桃』は原作に忠実に描かれたそうですが、『二兎を追え』はどうなんでしょうか?
野田:いや、改変はかなり多いよね。
こゆび:多いですね。
野田:確か原文をこゆびさんに提出した時点で、すでに一年半前の作品だったから、こっちもじゃっかん手を加えたかったっていうのはあるし。てゐの過去の会話とか、『彼』の回想はかなり増えた。加筆は基本したくないタチなんだけど、これは自分でも満足いく加筆だったなぁ。元は『彼』らの出番はこんなに多くないからね。逆に二兎が竹の花を取りに来るくだりはカットしたり、削った所もある。
こゆび:あと、『打開絶招紅美鈴』の表紙絵って、あれ実は『二兎を追え』のクライマックスのシーンなんですよ。ただ、僕はあの時本文を目にしないまま絵を描いてて。野田さんの指定としては「美鈴が蹴りのポーズをしている」っていうモノだったんですけど、あとで読んで、本文の内容と自分の絵が、まるで違ったことに凄く後悔してて。だから『二兎を追え』のコミカライズ話もらったときは、絶対この絵をリベンジしてやろうと思ってました。


――原作から野田さんが加筆修正を行ったんですか。
野田:そうだね。ちょうど加筆のタイミングに合わせて、300Pくらいの伝記読んでたから色々書きたい気持ちはあったんだけど、あんまり書くと『彼』が紅魔と二兎を喰いすぎてしまうからやめて。まぁ反応を見るに作品のバランス的にはアレで大丈夫だったんだなっていう感触は得ました。


――あの4人のキャラを食いかねないって凄いですよね(笑)。
野田:いやほんとに(笑)。あと、暑苦しいナショナリズムみたいなノリにもしたくなかったから、その辺も気をつかったね。もちろん敬意は表しているんだけど。回想で出てきた部下たちにも、史実では考えがあったのかもしれないけど、『二兎を追え』では申し訳ないけど純粋な悪役になってもらった。自分たちにとって都合の良いモノが欲しいだけなんだっていう、ああいう描写にすれば、偏った受け取り方はされないかなと思って。回想で描いたあの事件も本当はいろんな側面があると思うんだけど、聞き分けのない勢力という面だけを採ったから、取捨選択というか、書きたいモノに当てはめたって感じ。


――途中でパチュリー出てきますけど、あれはレミリアと、そういうことだったんですか?
こゆび:あれは原文でも前後の場面がなくて、ただベッドにいただけだったので……。僕はそういうことだと思って描いたんですけど(笑)。
野田:僕の書くキャラは基本的にそうだけど、紅魔館の連中は僕の中では性的に大らかだから、あのシーンはもうレミパチェを想像してくださって結構ってことですね。あれはもう直球で性的描写として受け取っていただいて(笑)。


――ドライなそういう関係だといいなあと思いながら見てました(笑)。
こゆび:ちょうどいい機会だから聞いておきたいんですけど、咲夜さんが、『彼』に「戻してくれ」って言われて空間を戻したりする場面があるじゃないですか。あれはどういう能力だったんですか?
野田:あれ誤解されてるかもと思ったんだけど、時戻してると思った?
こゆび:はい、時戻してるのかなと思って。
野田:咲夜の能力の範疇からはだいぶ外れるけど、時間ではなく空間を操っているのかな。他のやつに可視化はされない状態で空間だけ移動させて、臨終を看取らせてあげたみたいな感じかな。時間軸は同じだから。で、そのあと時間を戻してくれってなるから……まぁ大胆な時間の使い方よね。
こゆび:原文読んでて、現場を再現したのはわかったんですけど、咲夜さんそんな能力あったっけなーってちょっと頭上にはてなマークが出て(笑)。それをちょっと確認したかったんですよね。
野田:あのへんは、時空を操る咲夜の能力というところで押し切ったね。拡大解釈というか大掛かりな能力になるけど。あの時も厳密に考えてたわけではなくて、時空を操る咲夜と、関わっている『彼』に、過去の事件の場面をさせたいっていうのが先に来てた。
こゆび:野田さんの作品って時事ネタというか、リアルタイムネタが入るじゃないですかたまに。ノブレスのまどマギとかもそうですけど。「戻してくれ」っていうセリフがジョジョネタなのかなと思ったんですよね。


――ムーディ・ブルース*5ですかね。
野田:そうね、ムーディ・ブルースに近いかもね。再現だけじゃなくて、実際に死にかけた老人の記憶にも『彼』が出てきてるから、ちゃんと接続はしてるんだけど、再現といえば再現。あとはアンダー・ワールド*6も入ってるかな。元々のイメージのネタはあのへんかもしれんね。さっきも言ったとおり看取らせてあげたいっていうのが先に来てたから、そこに咲夜の能力を当てはめた形なんだけど。


――しっかり理屈があるわけじゃなくて、あくまで場面優先なんですね。
野田:この調子で聴かれると長編とかになるとボロボロ出てきそうよね(笑)。
こゆび:突っ込みどころも出てきますかね(笑)。
野田:ネタによっては、読んだ人がいい方向に解釈してくれてる場合もあるから、そういうときはあえて黙ってたほうがいいかなとは思うけどね。さっきのイラストの話でも言ったけど、出来上がった時点で作品は飛び立っていて、その後は読者との共同作業みたいなところがあると僕は思ってて。僕やこゆびさんが持っていないモノを、読んだ人がたまたま持っていて、そこに作品の何かが反応して、感動という形になるなら、まあラッキーパンチというか、それはそれでアリかなと思ってる。たまたまそうなったならありがたく受け取っておこうという。まぐれも実力のうちというかね!(笑)
こゆび:野田さんあんま細かい設定気にしないですよね。
野田:覚えてられないんだろうね。面倒くさくなっちゃって。メインどころ以外は調べても忘れちゃうんだよね。
こゆび:ああそうだったんですか。ノブレス読んでて、歴史としてこういうのが残ってるんだなと全部鵜呑みにしちゃったんですけど、信用しちゃいけないんですね(笑)。
野田:そうね(笑)。これはさっき言った、『二兎を追え』での過去の事件の扱い方にも繋がるんだけど。忠臣蔵*7を知ってる人の8〜9割くらいは大石内蔵助*8って名前を聴いたこと有るってレベルだと思うんだけど、物語とか歴史って、そういうレベルで動いていくと思うんよね。一部の専門家とか学者は把握して書き残していくやろうけど、全般的には「織田信長*9ってすげーやつなんだなー」とか「戦争が前あったらしーよー」とか、流れで覚えてるくらいだと思うし、みんながみんな勉強して暗記する必要もないし。だから、一般に流れてるイメージが、悪いわけじゃないと思うんよね。


――イメージとして残ったものが、歴史にも残っていくってことですね。
野田:三国志劉備*10も本当は聖人君子じゃないという話があるけど、大事なのは、今一般にでてくるイメージの積み重なりのほうで、事実じゃないけど、それこそが本当の歴史っぽいんじゃないかなと。だから『ノブレス』も、『日出処の天子*11とか、二、三の小説を読んだくらいで、蘇我馬子物部守屋とかのイメージを固めて、それに反するような事実がでてきてもそっちは見んごとなったね。みんなが漠然と出てきているイメージに乗せて、物語を動かしていくって感じ。物語の途中で微妙な考証が出てきても、止まるだけやしね。僕らは事実考証をしたいわけじゃなくて、物語を乗せて行っていい表現を書きたいっていうのがあるから、あまりにも事実と離れていると興ざめなわけたい。有名な人物なら、ある程度共通イメージで出てくるから、そこをとっかかりにしたら、あとはこっちで好きにやらせてもらおうと思ってる。
こゆび:一般人の一番大きなイメージを大事にするんですね。
野田:大事にするし、自身もその程度のことしか知らないしね。何年になにがあったかくらいは調べたけど、厳密に考証したいとかじゃなくて、自分で設定を考えるのが面倒だから、一般にこうなってるならこれに頼っとこうていう感じ。設定を組み立てる前にそっちを借りちゃう。書く時の便利さっていう意味で知識を確保するだけで、それに縛られたりはしないね。
こゆび:僕のイメージでは、時代考証ものとかになっちゃうと、何時代に誰々がいてっていうのが先行しちゃうと思うんですけど、野田さんは逆な感じですか。最初に書きたいものがあるっていう。


――設定に縛られるんじゃなくて、設定を見繕って利用するんですね。
野田:まず書きたいものが先にあって、それを書くにあたって一般に流布してるイメージが便利そうだから、そこに仮託して使うっていう形だね。
こゆび:でも、そっちのほうが作りやすいですよね。
野田:うん、作りやすいし、そっちのほうが面白いし魅力的になると思う。ZUNさんもそうなんだよね。遠野物語*12にしろ、特に前後関係とかは重視せずに、一般的に流布してるか、もしくはちょっと調べればわかるイメージをぽんっと放り込んで、あとは勝手に解釈してOKっていうやり方。あのやり方はいいなーと思うよね。


――確かに、既存の神話や史実との関連性は入れても、前後関係を説明はしませんよね。
野田:グングニルが歴史的にどうだとか、レーバテイン*13がどうだとか言うよりは、『禁呪レーバテイン』がばっと出てきたときのかっこいいイメージを最優先にして、あとは好きに物語として考えてくれよっていう形なんだよね。ああこういうのでいいんだなっていう。ライトノベルの書き方とか読んだことあるけど、ああいうのって結構設定うるさいのよね。軽いと見られがちなラノベって意外と設定大好きで、きちんと考証されることが多い。『指輪物語*14なんかもそういうのの代表格で、この時ここで太陽が見えてここまで旅に一週間かかったから太陽の角度はここはこうでないといけないっていう――そういうのも別に悪くはないんだけど、僕はそこまでフォローしきれないかな……。


――その場で面白いのを重視して多くは語らないわけですか。
野田:とは言え、整合性はそれなりに保たないといけないけども。途中まで明るかった奴が説明もなく突然暗くなったりとか、そういうのは意外性でもなんでもないしね。書き方が下手だってだけの話だから。そういう整合性はちゃんと取らないといけない。そういうレベルの整合性と、太陽の位置がうんぬんみたいな整合性と二段階あると思うんだけど、後者のほうは僕はあんまり……。だからこゆびさんが部屋の見取り図とか描いてくれたけど、ああいうのは僕は割りとどうでもよかったり……。
こゆび:ああ、あれは構図的な問題なんで(笑)。
野田:そういうのは文書くのと絵を描く人の違うところやね。絵を描く人はそこに空間意識しないと描けないし。


――文章だと好きに想像してもらえますもんね。
野田:よっぽど克明に想像して貰いたいときは、右足を上げたのか左足を上げたのか、くらいのかき分けはするけど、そうでもないところはさらっとしか書かないもんね。


――今回お話を聴いた『水蜜桃』『二兎を追え』などの短編作品だと顕著だと思うんですけど、野田さんの作品は、いびつなもの同士が相乗効果で反応しあって、それぞれが一歩前に進む、という話が印象的なんですよね。
野田:物語の基本構造として、誰かと誰かが出会って、話が始まって終わった段階で変化がおとずれているっていうのは物語の根幹の要素ではあるよね。歪みを前面に出しているのは僕の好みじゃあるんだろうけど。しかしそうか、考えてみると今書いてるSSはまだそういう部分が見えてきてないんだよね……。話して交わって爆発が起きるっていうのが。今足りないのはそれかな。言葉にされて、初めて納得したねえ。

小説の話をしましょうか


――『ノブレス・オブリージュ』についても少しお聞きしましょうか。『ノブレス・オブリージュ』は四部構成のお話で、神の巻が青娥娘々誕生秘話、霊の巻が神子たちの戦いの話、廟の巻がそれの続きとなり、聖の巻が平安時代藤原氏たちの話と、時代を超えた壮大な物語なわけですが。神の巻は青娥しか東方キャラクターが出てこないという作品なのに、しっかり東方二次創作として読ませるのが凄いと感心しました。
こゆび:でも全然抵抗ないですよね。普通に読めてしまう。野田さんの作品はオリキャラ色んな所で出てきますけど、ああそういう人いるんだって感じで全然抵抗ないんですよね。
野田文七:時代や登場人物も変わっていくんだけど、青娥は毎回出てくるのは共通してるんだよね。あの人が出てくると途端にR18になって困る(笑)。頭パーンがお家芸とまで言われてるし。偉い人挑発して頭ふっとばされるのがパターンになってて。


――『ノブレス・オブリージュ』は、青娥さんが「邪悪な火の鳥*15」って感じですよね。
野田:確かに(笑)。傍観者になったり本筋に絡んだり、毎回わかったようなこと言って好き放題するしね。未読の人にもわかりやすい表現かも。
こゆび:でも、青娥もある意味純粋なんですよね。自分のやりたいことに心から素直というか。僕が好きな表現は、地の文にキャラクターの重い思考が出てくるところですね。神の巻だったら、青娥が結婚して子供を生んだ時、疲れきってて、夫のかくが慰めてくるのをうっとおしいと思った、と書いてあるところ。どんなに好きな人でも、そういう風に思ってしまうことはあるんだよなっていう。それが自分にとっては衝撃で、だから読んでると不安になってくるんですよね。物語的にはいい方向にいってていいセリフいってるんですけど、裏で何か企んでるんじゃないかって思っちゃうんですよね。あの表現がすっごい好きです。
野田:抽象的な表現になるけど、僕は強い表現というか、強度のある表現が描きたいっていうのが、作品を書く上でずっとあるんよ。理由や目的というより、指針というようなものなんだけど。ああいう感情の動きは強烈さを表したくて書いてたんだけど、意図しなかった風にしろ、こゆびさんには強く焼き付いたんだろうね。


――『ノブレス・オブリージュ』は既刊がほぼ手に入らない状況とのことで私も飛び飛びでしか所持していないのですが、今後総集編を出されるんですよね。
野田:冬コミでね。神・霊・廟をまとめて一冊にして出すつもりです。かつての京極夏彦みたいなイメージで(笑)。文庫三冊分だからね。


――なるほど分厚いんですね。表紙とか、張り子作って写真撮るんですか?
野田:あれ誰かに作ってもらってるのかね?(笑) 加筆修正するとは言え、一度出してるものだから色々オプションはくっつけたいよね。イベントとかでも神霊廟がありませんか?ってのはしょっちゅう訊かれるから。DL版はあるんだけど、本で欲しい人は多いみたいだからね。


――ではお二人の今後の活動ですが、野田さんは例大祭では『グラン・ギニョル』という作品を出されるそうで。
野田:過去に僕が書いた原作からシーンを抜粋して、10〜20ページほどの漫画を描きぬいてもらってる合同誌ですね。シーンの抜粋だから読んだ時に尻切れトンボ感というか、俺達の戦いはこれからだ!感があるかもしれないけど、豪華作家陣の共演が今回の見どころだね。ほんと予想外に凄い人たちが集まってくれて。


――作品の中には創想話で読めるものもありますし、ここから原作に逆上ってみるのも良いかもしれませんね。野田さん自身の新作はあるんでしょうか?
野田:出すよ〜(笑)。『永夜回廊』という本なんだけど。


――タイトル的に、永夜抄のお話なんですか?
野田文七:東方は大体そうだけど、永夜抄は特に色んなエンディングがある作品で、同じ一夜の出来事のはずなのにエンディング同士が関連持ったりして、普通に考えたら矛盾も出てくるんよね。それを、輝夜が永遠と須臾を操る程度の能力で、あの一夜自体を何回も繰り返していて、という解釈にして書いたものです。延々と続く一夜を、そろそろ止めたほうがいいんじゃないかってことで自機8人が戦うみたいな、そういう話ですね。それと、もう一つ、以前創想話に投稿した短編の『風神葬祭』をモアールさんが漫画化してくれまして、これも頒布する予定です。お楽しみに!


――例大祭以降の作品についても教えて頂けますか。
野田:さっき言った『ノブレス・オブリージュ』の総集編を出すのと、あとはノブレスのアンソロジーも作りたい。『ノブレス・オブリージュ 淫の巻』というタイトルなんだけど。これはタイトル通り18禁で、『グラン・ギニョール』みたいに色んな作家さんにノブレスの1シーンを描いてもらうものになると思います。


――ほう! こちらも楽しみですね。
野田:あと、これは決まってるわけじゃないんだけど、藤原道長はまた書きたいんよね! 道長の句に「この世をばわが世とぞ思う望月の〜」ってあるじゃない。あれになぞらえて、道長が月面侵略を企てて、綿月姉妹と戦うっていう話を考えててね。


――もうそれだけで面白そうですね!
野田:平安時代の×××が、ノブレスでは×になってるから、それもまた絡めて。聖の巻では書ききれなかったところだから、そのへんの話も来年か再来年かにやりたいね! ロボットいっぱい出したいからそれまでにロボアニメをもっと勉強しないと。ジャイアントロボしか見たこと無いから。あと、夏と秋は『明治17年のメトロポリス 上海篇・東京篇』っていうのを出すつもりなんだけど、これはまだ形がなんとなく見えたくらいだね。


――こゆびさんは、今後はどんな活動をされるんでしょう? 
こゆび:今度の例大祭で久々にオリジナルで描いてます。同じサークルメンバーの3人で描いた合同誌で、基本的にレイマリが食べたり飲んだりする話。話の方向性は3人で違うんですけど、僕は霊夢との違いに悩む、魔理沙の葛藤を描きました。


――動画などを製作される予定は?
こゆび:以前自分で出した同人誌では、シリアス系を描きたかったんですけど、ページ数がすくなくて、そこに納める技術が自分になくてですね……。結局あたりさわりのない日常ものになりました。動画の作り方もわかったので、自分でシリアス系をがっつりやるなら手書き動画でやろうかなと思っています。なんとなくチルノの話を描きたいと思っていますね。


――まだこゆびさんのオリジナル作品を見たことがないので、どんなものになるのか楽しみです。
こゆび:好きなモノに影響され易いので、例えば『うしおととら』とか、ああいう熱いモノを描きたいですね。それと、文七さんのコミカライズも、次の話をもういただいてます。
野田文七:夏コミで、『グラン・ギニョール』で描いてもらった、お燐と妹紅の話の続きを描いてもらって、単独で出そうか、ということを今話してるね。冬コミの『ノブレス・オブリージュ 淫の巻』でも何か描いてもらう予定です。あと、再販になるんだけど、『水蜜桃』の上下巻を一冊にまとめて出し直そうと考えてます。これは紅楼夢で頒布するつもり。
こゆび:そういう感じです……!(笑)


――またお忙しくなりそうですね!(笑) 期待しております。では最後に作品を作ろうとしている人たちに、何か一言お願いします。
野田:じゃあベッタベタなものを! 継続は力なり! 年々そう思うようになってきたね! 続けなかったものはどんどん衰えていっちゃうから。絞って続けていくべきだと思うね。ここだけはあきらめられん!っていうものを続けるといいと思います。
こゆび:途中で投げ出さずに頑張って欲しいです! やると決めたら最後までやる覚根性とか意気込みが欲しいです。一番モチベーションが高い時が一番やるぞ!っていう瞬間なんですよ。あとは下がり続けるだけなので、いかに維持するかですね。初めのうちはうまくいかなくて、やめたくなることなんて腐るほどあると思うんですけど、それでも完成させる気持ちは持ったほうがいいんじゃないかなと思います。島本和彦の言葉を借りるなら、「駄作を作る勇気!」ですね。「三つ作品を作って一つ良作ができれば御の字!」っていう言葉もあります。だからと言って「駄作を作るのに慣れてはいけない」とも言ってましたけどね。とりあえず一つ作ってから、頑張って欲しいです。


――本日はお二人共、ありがとうございました!


次回のお相手は未定! ということで東方見聞録はしばらくオヤスミです。 でも必ず戻ってきます! ひょっとしたらちょっと違う形で! それまでお元気で!

*1:アーケード格闘ゲーム。開発はカプコン。これまでのシリーズからキャラクタを一新した新世代的な意味合いが強い三作目。中でもサードストライクは『ストリートファイター3』の最終作であり、バランス調整の見直しや新キャラの追加などが行われた向上版であり、格ゲーファンに長く愛される作品となった

*2:ドラゴンボールに登場する敵キャラクター。かつて地球を支配しようとした魔族の王であり、ピラフ一味によって封じられていた電子ジャーから復活した。ドラゴンボール序盤の強敵であり、彼が死に際に産み落とした生まれ変わりが、後に悟空の仲間となるピッコロである

*3:東方手書き作者。名前のとおり、音楽家倉橋ヨエコの大ファンを自称しており、氏の楽曲を中心にした東方×音楽PV動画を主に制作している。代表作に『沈めるチルノ』『妖夢の手作りあんどーなつ』など

*4:東方手書き作者。代表作に『吸血鬼咲夜』『紅魔館の一日を描いてみバイブた』など。シモネタ上等カオス上等いわゆる東方上級者向け、超級者向け動画を主に制作。サイトでは一枚絵も精力的に制作しており、極彩色の色遣いや幾何学的なデザイン模様を配した独特の画風を持つ。なまじ画力が高いが故に「画力はあるが理性のないうp主」というタグがつけられることも

*5:ジョジョの奇妙な冒険』に登場する能力・スタンドの一つ。本体はレオーネ・アバッキオ。過去の出来事を見ることができるスタンド。指定した人物がその場で行った行動をスタンド自身が再現する。再現はビデオのように早送りや巻き戻しも可能で、数秒から十年単位までいくらでも巻き戻して過去を見ることができる。ただし、過去を巻き戻している時はスタンドは無防備になってしまうため、大きな隙を見せることになってしまう

*6:スタンドの一つ。本体はドナテロ・ヴェルサス。地面で起こった『出来事の記録』を自在に再現することのできるスタンド。ムーディ・ブルースが人物の行動限定だったのに対し、こちらはその場で起こった現象全体が再現される。再現された『出来事』には実体があり、巻き込まれると自分自身も『出来事』の中に組込まれてしまう

*7:元禄赤穂事件を題材とした創作群の名称。江戸城殿中において吉良上野介に刀を向けた浅野内匠頭。朝野が切腹となったことを受けて、その処分を不服とする大石内蔵助ら47名が吉良に討ち入りを果たす、というのが話の大筋。忠義を尽くし命を顧みず復讐を果たしたこの顛末は当時から大いに庶民の心を使み、300年を経た現在も様々な媒体で新作が制作されている

*8:江戸時代の武士の一人。播磨国赤穂藩の家老。赤穂浪士を率いた元禄赤穂事件の指導者であり、多くの忠臣蔵で主人公として描かれる

*9:戦国時代〜安土桃山時代の武将、戦国大名室町幕府を滅ぼし、天下統一まであと一歩というところまで成し遂げた、誰もが知る歴史的人物

*10:三国志の英雄の一人。諸国を放浪しながら屈強な武将を従え、やがては蜀を建国。魏・呉と天下を三分する争いを繰り広げた。横山光輝三国志を始め、聖人君子のイメージが強いが、三国演義では怪物のような姿で描かれるなどしている

*11:漫画作品。作者は山岸凉子。聖と俗、男と女、相反する性質を抱える厩戸皇子が、蘇我毛人への想いと悩みながら、やがては摂政となっていくまでを描く歴史浪漫漫画。聖徳太子を主人公とした漫画の代表的な一作

*12:説話集。作者は柳田國男。小説家・民話蒐集家の佐々木喜善が語る、遠野地方に伝わる様々な言い伝えや民話を書き起こし、編纂したもの。聴いたままをそのまま文章としつつも文学的な筆記となっているのが特徴で、日本の民俗学の発展に大きく貢献した。

*13:北欧神話において邪神ロキが創りあげた神の武器。後の創作作品においても数多く引用される名称であり、東方projectにおいてはフランドール・スカーレットのスペルカード「禁呪『レーバテイン』」でおなじみである

*14:小説作品。作者はトールキン。はるかな遠い昔、人間やホビット、エルフといった異種族たちが住まう中つ国を舞台に、ホビットである主人公フロドらと仲間たちの『全てを統べる一つの指輪』を巡る、壮大な冒険が描かれる。緻密に構築された圧倒的な世界観は後のファンタジー小説に大きな影響を与えた

*15:漫画作品。作者は手塚治虫。時代と場所を超えて現れる生命の象徴・火の鳥を巡る、生物たちの生き様を壮大なスケールで描く伝奇浪漫漫画。作中の火の鳥は人間たちを時に導き、時に見つめる超常的な存在