第5回 村上4時さん(東方手書き作者)


【むらかみよじ】
東方手書き作者。福岡県在住。
2009年6月7日、『[東方]博麗霊夢は金が欲しい[手書き]』でニコニコデビュー。
長年漫画を描き続けている漫画描きさんでもあり、細部まで練られたシナリオ構成、心理描写、ギャグとシリアスの緩急の妙など、高クオリティの魅せるストーリー作品を多数制作している。代表作に『ふゆのひまわり』『RED NIGHT GIRLS』など。
配信も精力的に行っており、軽快なトークや漫画談義にはファンも多い。怪物、メカ絵好きであり、また人外娘をこよなく愛する絵師でもある。
サイト:アスフィル☆トライドラ niconico pixiv twitter

みんなもっと考えてみたら?っていうことなんだよね。

※なお、今回のインタビューはskype越しではなく、実際に村上さんのお宅へ突撃取材を敢行致しました。ライブ感を出すためにあえて会話色を残した文章になっています。また、『博麗霊夢は金が欲しい』『ふゆのひまわり』のネタバレが多分に含まれます。ご了承ください。

動画事始:村上


──(深夜の馬鹿力*1を聴きながら)村上さんは、作業BGMにラジオ聴かれること多いんですか?

村上:いやーまったく聴かんね!


──あ、そうなんですか(笑)。

村上:普通にレンタルショップでCD借りてきたりとか、あとTVつけっぱにしとくとか。サスペンス系のドラマを垂れ流しながら見るけど、シナリオ良くできてて面白いよね。webラジオとかはほとんど聴かない。


──でも今これ聴いてて、作業用にラジオもいいかなぁと思いました。

村上:これ作業になるか!?


──黙々とした作業なら(笑)。作業によって使い分けたりもされるんですか?

村上:動画を作ってるときは動画用の音楽を聴いたりしながらで、アナログ作業の時はアニメ観ながらとかやったりするね。


──TV観ながらって、それこそ集中できますか?

村上:集中してやりませんから(笑)。アニメでは、最近は『四畳半神話大系*2を見てて面白かったですね。近年まれに見る良作で、終わり方がすっきりしてた。これでもかっていうくらい、後腐れのない終わりすぎて良かったね。大抵のアニメはまだ終わって欲しくない、と思っちゃうことが多いんだけど、そういうのがなくて、非常にクオリティの高い作品だったと思います。後腐れのない作品が好きなんだよね。大団円って難しいんだけど、漫画を描くときもそういうものを描きたいと思ったりしてます。

──神話体系は色んな人がオススメされてますよね。

村上:あと、『アラド戦記*3っていうゲームのアニメも最後まで観たんだけど、あれは大好きだったね。2ちゃんで感想とか見たりするんだけど、アラド戦記板の荒れなさって異常なんだよ、何が起こっても「さすがアラドクオリティ」でぜんぶ片づけるから(笑)。


──万能なんですねそのフレーズが(笑)。

村上:細けえことはいいんだよ!のAAがいつもあるしね(笑)。一世代前の日本のアニメを更に今風に駄目にしたような感じがすごく香ばしくて、私の中で見てて愛でていたい作品のひとつです。熱いところだと「若干」熱くて、ところどころのギャグも古くて、キャラクターデザインもなんか芋臭い(笑)。時代に着飾ってないあたりが応援したくて仕方ないですね。たまにシナリオも安定してるときがあって、逆の補正がかかって面白く感じる。一般には受けない感じだったから商業的には失敗だったのかもしれないけど、俺的には大成功だね。俺の中ではすごい評価高い作品です。
似たようなのだと、『ストライクウィッチーズ*4とかもそうだね。


──パンツじゃないから恥ずかしくないもん!ですね。

村上:そうそう。だってあの衣装ですよ、あれだけ見たら明らかに評価の対象外だと思うじゃないですか(笑)。でもそのくせ案外シナリオも作画も良くできてると、逆補正がかかって面白くなるというね。
ひどいことばっか言ってるけど(笑)、でもあえてうさんくささでハードルを下げて、楽しませるっていう手段も、案外アリだと思うんですよ。僕たちはそう言う見方で楽しめてるわけだし。例えば、B級アクション映画なんかはまさにそういう形態だよね。キャッチコピーが「このボス、危険につき!」とか、ある種もうバカ臭いじゃない(笑)。その時点でクオリティはもう求めないから、いざ見てみて普通にできてる作品だとあ、いいじゃんって思える。それでもう一歩話も良くできたりすると、更に面白く思える。最初にハードルを下げる、っていうのも立派に通用する魅せ方だから、キャラデザに芋臭さを出すとか、そういうのをわざと出せるようにしたら一人前なんじゃないかなぁ、と思ったりもするわけさね。
だから東方手書きで、わざと絵とかでハードルを下げてる人は、すごくプロデュース上手いなぁと思う。そういう楽しませ方を見てる人は否定しないでほしいね。絵で勝負してないじゃん、とか思う人もいるかもしれないけど、別のところで楽しませる工夫なわけだしさ。


──村上さんは初めて見た東方の作品ってなんでしたか?

村上:まず、『アリスは大変な物を盗んでいきました』*5とかで存在は知ってたんだよね。大半の人はそうだと思うけど。で、そのあと作業用BGMを探していて、東方神アレンジ動画をマイリスしたり。でもこのときはまだエロゲーかなんかか?というくらいの認識しかもってなかった(笑)。

で、その頃は、僕がものすごくMUGEN*6にハマってた時期でね。元々、キング・オブ・ファイターズ*7とか、格ゲーは好きだったんだけど、ニコニコにUPされているMUGEN動画の中に、ドラゴンクロウ*8っていうすごく動きの良いキャラがいて、それ関連の動画を調べてる内に、そういうMUGEN動画を見るようになってて。そこに東方キャラが出てたんだよね。mugenの東方キャラはのきなみ良いドットなのが印象に残ってて、そこで初めて東方自体にちょっと興味が出てきた。
そんな風に再生数の多い動画を色々と見てたら、その中に二次創作漫画があることに気が付いて…っていう感じだね。どれを最初にみたかな…『ZUN素』はかなり早い段階で見たと思う。元々の『えの素』*9って漫画が凄い好きで、あれを東方キャラでやった、っていうふざけた漫画がある、これは見らいでか!(笑)と思って視聴して、そこから手書き動画を色々見始めたね。こういうアプローチもあるのかーと思ったりしました。


──それから手書き動画を作るに至るには、また色々あったんですか?

村上:元々、実況動画とかやってたんですよ。ちやほやされたくて。ちやほやされるの大好きなんですよ(笑)。実況動画をよく見てた時期って、僕、鬱になってた頃でして。実況を眺めてて、これくらいだったら俺でもできそうだと思って、ちやほやされることで鬱から脱出しようと思ったの。まぁ結局そんな大したものは作れなかったんだけど、それでも3,4人の視聴者が最終回までついてきてくれてね。それが凄く嬉しかったんだよね。おかげでそのときにはだいぶ鬱から脱出できてたんだけど。
で、そのあとしばらくしてからさ、今度は東方の手書き動画を見て、これだったら俺でもできるんじゃね?(笑)と思ってやったっていう感じだね。まぁまとめると、ちやほやされるために描いてます!(笑)


──動画作りは、今までの漫画作りの延長のような感じでしたか?

村上:全然違うねー。まず見せる規模が全然違うからね。漫画は、せまいコミュニティのなかでしか披露したことがなかったからさ。動画だったら、もっと何万人っていう人に見せることができるわけで。もちろん漫画でもpixivとかにあげればそういうこともできるかもしれないけど、基本的には漫画って印刷物としての印象が強くて。買わなきゃ見れないっていう、そんなイメージ。動画ってのは買わなくても見れるような認識だったから、クオリティとかもゆるくできたんだけどね。動画制作は趣味でやってた漫画とは違ったね。


──個人的に好きな動画とかはありますか? 東方以外でも何でも。

村上:基本的に、「動画だから面白い」っていう作品が好きですね。それよりもっと細やかな、ストーリーが面白い、とかになると相当なものじゃないと評価できないので。ニコニコ動画という場所を有効利用した、プロデュースの仕方が上手いものには目を引かれます。実況プレイもそうですね。ゲーム自体よりプレイヤーさんの手腕のほうで見ることが多いです。実況じゃないですけど、テクテクさんのデッドライジングプレイ動画*10は、カットインや編集がめちゃくちゃ上手くて、非常に笑わせてくれる動画ですね(笑)。ああいう風に、動画を撮るんじゃなくて、作っている作品が好きです。さっき紹介したバトレボ実況*11もそうですが、番組みたいな編集で、こういうことをしたら面白いんじゃね?っていう、楽しませ方にすごいアグレッシブなのが好みですね。

漫画と動画:むらかみ


──漫画は何時事から描き始められたんですか?

村上:小学校一年です。


──早いですねー。空ノ雨雲さん*12と同じくらいですか。確かソラノさんはカービィの漫画が最初って仰ってましたね。

村上:あーまったく一緒だわ(笑)。僕はカービィっていうか、ワドルディ*13物語っていうの描いてた。


──ワドルディですか(笑)。どんなお話だったんですか?

村上:熱い漫画だったね…ワドルディは、ワドルディ星の王子で、星に攻め込んできてる化け物を倒しに行くってのが毎回のパターンだった。そのうち、新・ワドルディ物語になって、新・ワドルディ物語2になって、最終的にワドルディ物語ファイナルになって、終焉を迎えたね(笑)。ちゃんと冊子にしてて、一巻ごとに新キャラを出すっていう謎の制約を作ってて、新キャラが多くなりすぎて相当キツかった記憶がある(笑)。


──もうすでにそんな記憶があるんですね…。

村上:昔から人に読んで貰うのは楽しかったね。聞く話だと、漫画描きの人は一人で黙々と描いてたってひとが多いみたいなんだけど、俺の周りには二人くらい同じように漫画描いてる奴がいて。そういう奴に漫画を見せて人を楽しませるのが凄い好きでね、あれがあったから漫画を描き続けられたんだと思う。描きたいだけで満足って人は一人で描いてればいいんだろうけど、評価を受けて描きたいなーって思う人間だったんだね俺は。
評価を受けて、っていうのは凄いねーってだけじゃなくて、つまらんねーっていう評価も受けてなんぼなのよね。人に見せるのが目的だから、良いのも悪いのも、どんな評価も受け入れる。まぁ実際悪い評価もらったら凹むだろうけどさ(笑)。動画なんて、人に見せるのが目的だからね。描くだけで楽しいなら、描いてそのままにしておけばいいじゃんって話だし。みんなpixivに絵をあげるのって、どっか評価して欲しいからでしょ? やっぱり評価されてこそ、自分の作品にも自信が出たりとか、あるわけじゃない。


──そうですね。

村上:だからそういう、人に見せる作品を描いてる人に対しては、自分が描きたいものを描くってだけじゃなくて、視聴者のことも考えてちゃんと描いてる?ってのもあるね。まぁ僕が東方っていうジャンルでやってるのは単純に描きやすいからだし、その辺はバランスだよね。めっちゃ評価されたい!っていうのと、面倒くさいっていうのと、バランスを取ればいいと思うよ。バランスを取らないとやっていけません(笑)。


── 一から作品を作るとなると大変ですしね…。

村上:前にスティッカムとかでも話したんだけどね、描きたくないって思ってしまうまで、描かない方がいいよ。絶対良い線引けなくなっちゃうしね。成長にも繋がらないし。しばらく間をおいて、描きたい!って思ってからまた描き始めるのがクオリティとしても絶対にいいと思うんだよね。


──村上さんは漫研とか、そういう活動はされていたんですか?

村上:高校の頃に漫研には入ってたけど、でもそれ以前と今とでスタンスに別に変化はないかな。あそこに居て良かったのは、良き友と出会えたことだね。あそこに入ってたときは、人生で一番周りの人間が漫画描いていて、。そういう人と出会えたから、絵の描き方に関してはレベルアップには繋がったね。同級生が二人いたんだけど、二人とも東京の芸大に行っちゃってるし。絵上手いんだあいつら。


──ほほう。

村上:まぁ漫画描くのは俺が一番上手かったけどね!


──あはは(笑)。

村上:あとさ自分の作品はさ、めっちゃ褒めようぜ! さっきみたいに。自分の過去の作品でも、ここすげーなー!って、今でも素直に思えるところってあるのよね。それはモチベーションにもなるし。黒歴史黒歴史言わない方が良いですよ。あんまり自画自賛しすぎたらうざいって言われるかもしれないけど(笑)、どっちかというとそういう風に考えた方が良いよ。こういうのは手書き作者だとやっぱり空ノ雨雲さんがそうだと思うんだよね。


──そうですね、空ノ雨雲さんは自分の作品を小学1年生のころから保管されてますし。

村上:自分の作品凄い大切にしてるからね。俺も自分の作品大好きだし(笑)。嫌いになりたくないね。自分が苦労して産んだ子供だしさ。まぁ創作してる人間だったら大なり小なり持ってる気持ちだろうけどね。


──かなり長い間漫画を描かれてきている村上さんですけど、プロの漫画家を目指されていたことは?

村上:以前はかなり真剣に志望してましたね。一度だけ投稿もしたことがあるんですが、そのときはまだ技術もなかったので、その点で単純に落とされたんじゃないかなと思ってる。その後もリベンジするべくずっと描いていたんですけど、そのうちひゅっと毒が抜けたというか、実生活も忙しくなったりなんだりで、やめちゃいましたね。気楽に描いてるほうがいいかな、と。ただ、完全にあきらめたわけじゃないんだけどね。タイミングさえ合えば狙っていくかもしれないけど、今はその機会じゃないかなって思ってる。まぁ半分以上はびびってるっていうのが本心だけどね。自分が評価されないのが怖いっていうか。ニコニコ動画でこんな風にある程度評価されたぶん、逆にそれが怖いのかもしれない。まぁそれも踏まえて色んなものに手を出しつつ、自分への自信と技量を固めていきたいなって感じで活動してますね。


──影響を受けた漫画はありますか?

村上:ぱっとでてこない辺り、たぶんないだろうね。好きな漫画はいっぱいありますけど、この人みたいな漫画を描きたい!っていうのは、基本的にはないです。何でも描きたいタチなんで。
ウエダハジメ*14さんのシュールな雰囲気とか、『金剛番長*15みたいなシンプルな少年漫画とか、読んでみて面白い!描きたい!って思うものは、現在進行形でいっぱいあるんだけど、自分の作ってる作品に影響を与えてるっていう漫画はそうないと思いますね。中学生の頃は『BANANA FISH*16を読んで、こういう麻薬が絡むサスペンス物描きたいなーとか、『攻殻機動隊*17を読んでロボット系とか、『らぶひな』*18を読んで恋愛ものに手を出したこともありますし。その日その時で描きたいものはジャンルから何から全然違うので、どれか一つを描きたい!って思ったことはないです。


──オールジャンルなんですね。

村上:そうですね、オールジャンル。なんでも描きたくなります。


──HPのプロフィールを見ると色々書いてありますね。
村上:まあこれもだいぶ変動してますけどね。ナウシカなんかは父が持ってたのを読んだり。漫画とか映画とか好きな人だったので、漫画に興味を持ったのは父の影響もあったのかもしれないですね。そういう意味ではすごく恵まれた環境でした。あとは『ザ・ワールド・イズ・マイン*19っていう漫画は好きだね。


──『ザ・ワールド・イズ・マイン』ですか…。拝読していないんですが、書店でかなり印象に残ってる漫画です。

村上:特に僕が漫画を描くにあたって、かなり好きなセリフがあって。(本棚にあるもののページを開いて)この巻ではテロリストに触発されて、一般市民が殺し合いをしそうになるんだけど、そういう状況になったときに、総理大臣が凄い良いことを言うんだよね。なかなかこの人が食わせ物なんだけど…。国民に対しての演説で、涙を流しながら「私が何故泣いているのか想像してください」って問いかけるんだよこの総理は。実際は、直前にメンソレータムを塗ってるから泣いてるんだけど、それを見ている国民は色々想像するわけ。このような事態を招いた自分のふがいなさを悔しく思って、とか。単純に切羽詰まってどうしようもなくなってる、とか。で、総理はそういうのを指して、「人間の最大の罪は、想像力の欠如である。馬鹿は罪だ!」って言っちゃう。この後、総理は棺を運ばせて、その棺を蹴飛ばすんだよ。実際には中は空だったんだけど、このとき「今私に不快感をを覚えた人は、死者へ冒涜する私を見て、嫌悪感を感じたあなたは望ましい人だ」って言うんだよね。

この人の一連の演説は、言ってしまえば「人間が、人の気持ちを想像できないってのは、はっきり言って罪である」ってことなんだよね。行動とか結果でしか人間を判断できない、考えられない人は、考え慣れないといけない、と。俺自身はそういう考え方が結構好きでね、『博麗霊夢は金が欲しい』を描いたところもあるんだよね。もっとみんな色々考えて欲しいなーってね。


──今後オリジナル作品を公開していくことはありますか?

村上:お金になるならしてもいいかなーと思ったりしてます(笑)。これを言うと自意識過剰って言われるかもしれないんですけど、自分が描いた昔の漫画とかを読み返すと、無料で出すのはちょっと惜しいなって思っちゃうような作品がけっこうあるんだよね。こう言うとまたハードル上がるかもしれないんだけど(笑)。淡々と曝していくのがもったいない気がするっていうか。そういう意味では今やっている東方の二次創作って凄く気楽なんですよ。作っていて、これでお金はちょっと取れないなぁと思えるので。労力も片手間だしね(笑)。

動画を作るに当たって:村上ちゃん


村上:でもこの辺も、例えば同人始めて金が入るようになったら、また考え方変わると思うんだよね。「いやー金がもらえるほど評価されてるってことだよ、フッフ」みたいにさ(笑)。正直ね、俺の考え方を聴いて、「村上さんはこういうことを考えてるんだ」って思わない方が良い! すぐ変わる!(笑) 俺頑固じゃないしね。


──頭が柔軟なんですね。

村上:人に教える講座のときもさ、「こうなんですよ!」って俺言ってるけど、そう言いつつも自分の中では「いや、それは無くね?」「それは一つの考え方だよね」くらいにしか思ってない(笑)。それは自分の制作した作品にも反映されてて、俺の作品には完全な善とか、悪とか出てこないんだよね。


──全員に意図があって、理由がありますよね。

村上:そうそう。それぞれがちゃんと物事を考えて、その動機に基づいて行動してる。誰が悪いってわけでもない。最善の解決法っていうのは別に、誰もが共感できるとかそういうレベルの話じゃない。納得できる結末かどうかは、個人によるところが大きいんだよね
例えば、『ふゆのひまわり』。なんだかんだですっきり終わってるように見えるけど、見方によっちゃゆうかりんは非道い奴だなーと俺も思ってるし。人を騙くらかしたり、困惑させたりさ。逆に魔理沙も駄目なとこあるし、射命丸も駄目なとこあるし、チルノはチルノで言い出せてないし(笑)。だから、考え方に正解ってないんだよ。最初に動画を作ろうと思ったのはさ、もちろんちやほやされたかったんだけど(笑)、でもどうせ作るんなら、ちょっと世間のためになることをしたいなーっていうのがあったんだよね。手書きを作り始めた頃は、東方は小学生とか見てそうだなーっていう印象があって、だったらこういうところで、そういう物事を考えるきっかけとか出来たらいいなーと思ってさ。
だから最初に、一発目で反応を見るために『博麗霊夢は金が欲しい』で、冒頭に自殺云々を持ってきたんだよね。で、作中で火災を利用して保険金を貰おうとするけど、ぶっちゃけ保険金詐欺じゃない。あれもその詐欺に対してみんながどう思うか、っていうのが知りたかったんだよね。何事も丸く収まればやっていいのかどうか、ってことをさ。コメント見てると、魔理沙を擁護してる人が多いけど、中には「保険金会社が可愛そう」って言ってる人もいて、あぁまだまだちゃんと考える人もいるんだなっていうのがわかったりしたね。


──確かにあれも張本人が霧雨魔理沙で、キャラクターの性格も知ってるから擁護しますけど、あれが名前も違ってよく知らないキャラクターがやってたら叩いちゃいますよね。

村上:そうそう。そういうところを何か考えてくれたらね、ある程度作品を作った成果はあったと思えるよね。


──そういえば、ちょっと話がずれるんですけど。『ひぐらしのなく頃に*20という作品の話になるんですが、とあるキャラクターが、物語中で殺人を犯すんですけど、そいつは虐待されている友人を救うために、その虐待者を殺すんですよ。で、私は小説版でそれを読んだんですけど、竜騎士07*21さんがあとがきで、「彼がワイドショーで取り上げられたら、どのような脚色をされるでしょうか」「犯人がどのような過程で罪を犯すに至ったのか、私たちはちゃんと理解しないといけない」「犯人を理解する努力を。これがこの作品のテーマの一つです」といったことを書かれていまして。印象的な文章だったので、今の話を聞いてちょっとそのことを思い出しました。人間ですから、勘違いはありますし、不条理かもしれないけど、理由は必ずあるもんですしね。

村上:そう。あともう一つあるのが、正解を求めるのは大切だけど、それが絶対だと思わないことだと思うんだよね。自分の中で「これが俺が取るべき行動だ!」って正解は作って良いんだけど、それが批判されたときに、「そんなことねぇよ!」って言うんじゃなくて、「まぁそういうこともあるかな」、くらいに思うこと。自分の中で優先順位つけてやっていくのが人生だから、にっちもさっちもいかないで、どっちも間違ってるけどどっちかやらないといけなかったり、どっちも正しいけどどっちか捨てなきゃいけない、っていう状況は人生で多々ある。
だから、そういうこともあるんだよってことを物語の中で知って欲しいってのがあってね。商業作品とか、エンターティメントになると、誰もが納得できる結末を用意することが多いからさ。そういう作品を子供が読んで、実際にっちもさっちもいかない状況でどうしようもなくなって、絶望しかない、最悪自殺、とかそういうことになるんじゃないかなーって俺は思ってるわけね。俺個人の考えとしては、そういう選択肢にぶつかって、そのどっちかを選んだ場合、どっちを選んだとしても、それなりに上手くいくようにはなってると思うんだよね、もちろん上手く行かないこともあるけどさ。
博麗霊夢は金が欲しい』だと、魔理沙は罪を犯したけど、あとからは霊夢と仲直りもできたし、本音でぶつかるきっかけにもなった。結果オーライっちゃ結果オーライな結末なんだよ。だから、選択に正解はないけど、やらないことには始まらない、とかそういうことを考えて欲しいなーっていうのがあったりしてね。とにかくメッセージとしては、みんなもっと考えたら?っていうことなんだよね。コメント見てると、みんなちゃんと考えてるのはわかるなーていうのはわかってさ。それはちょっと嬉しかったね。「日本、大丈夫じゃん。道徳云々言われてるけどさ」って思えて。それは、あの作品を作ったことで、俺にとって凄いプラスだったね。それだけでもあの作品を作った意味があったと思えたよ。…こんなこと考えて動画作ってる人ってあんまいないだろうなぁ。


──そうですね、コメントがどんな反応かを見るのが最重要事項っていう作品はなかなかないんじゃないですかね。コメントを見るのが単純に楽しいっていうのは皆さんあると思いますけど。

村上:長文コメで埋め尽くされる動画ってそんなにないんじゃないかなーって思うんだよね。考えさせることを主題にしてる作品がそんなにないのかな。


──『古明地こいしのドキドキ大冒険』*22は、見てるとかなり長文コメ多いですね。先行きを推理してる人が多いみたいです。

村上:最近は、『ナポリタン東方』*23も長文コメ多い動画だよね。あれも考えさせるのが目的の動画だしね。まぁ道徳的なことを考えさせるっていうのだと、俺の動画くらいなのかな。自分の中では、『ふゆのひまわり』より『博麗霊夢は金が欲しい』のほうが、そういう狙いとしては上手くいってるんだよね。『ふゆのひまわり』のほうが作品としての完成度は高いと思うんだけどさ。話のまとまりとか。今描いてる『Red Night Girls』に関しては、全然ただのエンターティメントだし。まぁ同じような話を何度やったところでしょうがないしね。


──動画制作には、どれくらいの時間がかかりますか?

村上:それは……ナイショです(笑)。


──内緒なんですか(笑)。

村上:と言うか、ネタ出し〜絵描き〜動画編集まであわせて考えると、どのくらいかさっぱり分かりませんし、テレビ見たり動画見たりしながら描いてるので正確な時間は把握できないですね。

10000マイリス=100マイリス?:MURAKAMI


──絵もだいぶできてきましたね。

村上:いや、まだまだこっから試行錯誤しないといけない段階があるからね。とりあえずは色とか影をおきながら、ダメやったら変える、みたいな作業だね。


──なるほど。

村上:俺もスティッカムで描いてるときも、ダメだったらすぐ消すもんね。


──運に寄るところも大きいんですね。

村上:そう。運が良ければ良いラインが引ける。じゃあなんで絵の練習をするかというと、その確率をあげるためなんだよね。


──つまり運悪く良い絵が描けなかったら、最初からやりなおし、と。

村上:逆に運頼りになりすぎるのも良くないし、勿論実力ってのも大切なんだけど。


──なるほど。

村上:そういうもんだから、良い線が引けなかったら不運だったと思って、次にもっと良い絵が描けるなって思ったりもできる。だから、自分の絵に対してあまりもったいないとか思わんことが大切だったりするんだよね。まぁ時間はもったいないし、せっかく描いたのにもったいないから、まぁこのまま出すかーっていう妥協もありっちゃありなんだけど。でも、良いライン描けたなー消すのもったいないなー、でも、次にもっと良いラインが描けるかなって思うことが大切だと思うんだよね。ま、もちろん描ける可能性は低いんだけどさ。


──必ずしも突き詰めれば上手い絵ができるわけじゃないんですね。

村上:例えば、一度出来てしまったもの凄く良い出来の絵を、もう一度故意に描こうとしてもそれは難しいんだよね。それを超えることを考えるのは良いんだけど、なんで超えられないんだ?って疑問持つのはダメだと思う。あくまでも運の産物によるところが大きいわけだし。
もちろんよく見える理由はあると思うんだよ、構図とか。全く同じ絵を描くことはやろうと思えばできる、普通に。でも、それを匹敵する絵を描こうとする、っていうのは何か違うんだよね。だってさ、当然のように次に出るものがいいものになるんだったらさ、映画だってなんだって、2,3,4,5って続いちゃうじゃん。大体2で終わっちゃうでしょ? つまりその映画が1で当たったのは、運によるところも大きかったってことなんだよね。たまたま視聴者さんの意識にフィットするというか、受けるものができたってことで。受信者のほうがウェイトはでかい。楽しもうとする人が楽しむから面白さって生まれるからね。制作者がどんだけ「これ面白いですよー」って言ったところで、受信者がそう思わないとその作品は評価はされない。良い作品は、受信者が良い作品だって言って初めて良い作品になるからね。


──判断する側にゆだねられると。

村上:だからこっちが決めることじゃないんだよね。ただね、作者自身が一視聴者として数えられるんなら、また自分に対して参考になると思うけど。そもそもさ、そんなに奇抜な目を持ったひとっていないわけで、自分が面白いと思ったものだったら、他の人も面白いと思ってくれる可能性は高いんだよね。同じ日本に住んでる人間だしさ。作った後見直して、それが自分にとって面白ければ、その作品は十中八九ウケると思う。ま、もちろんそれを表現する技術も問題だけど。俺が初めて漫画を描いたのって、漫画を読んでて、この漫画超面白いけどここをこうしたらもっと面白くなるだろ、じゃぁ描いたほうが良くね?っていう話だからね。


──なるほど。確かにそういうのは自分もありますね。

村上:オランピア*24さんのエロ画像が全然無いから、じゃあ描いたほうが良くね?っていう話だからね(笑)。


──ハハハ(笑)。

村上:そういうレベルなんだよね、創作って。俺の場合は。


──自給自足ってことですね。

村上:そうそうそう。だから自分が読んで面白いもので、他の人にとっても面白かったら、またベストだよなーっていう感じ。そうだ、数の話をしようか。マイリスとか再生数の話。


──はいはい。

村上:例えば俺が最初に上げた動画は、マイリスは一応今10000を超えてて、再生数は100000行ってるんだよね。ありがたいことにそういう評価をいただいてるんだけど…10000ってね、数字って考えると一見凄いんだけど、一人一人の人間って考えると、実は100とかとそんなに大差ないんだよ。


──? と言いますと。

村上:つまり、評価するのは一人一人じゃん、ってこと。こういう動画で、10000のマイリスしてもらってる俺が、例えば別の動画を見て、その動画をマイリスするとする。するとその動画を作った人には、俺の評価は、マイリス1っていう数字でしか反映されないわけだよね?


──それは、そうですね。

村上:つまり、どういうことかっていうと、一人一人が、自分の判断でその動画をマイリスしたってこと。それは確率じゃないんだよね。その人達が生きてきた、経験が、感性が、俺に一致したからその動画をマイリスしてくれたってことで。それが一致しない人も、中にはいるわけで。例えば俺の感性と一致しない人が50000人いたとして、その50000人が別の動画をマイリスすると考えると、別に10000っていうのは数字としてはでかく見えるかもしれないけど、そこまで大した話じゃない。運が良かったと言いようがない(笑)。


──そういう受け手が10000人いたってことですね…ちょっと待ってください、頭の中で整理します(笑)。

村上:うん、俺も何が言いたいのか途中でわかんなくなってきてるから、うまく伝えられてない気がする(笑)。


──つまり、『自分の作品が凄かったから10000人のマイリストがもらえた、というわけじゃなくて、最初から自分の感性と合うような受け手が、たまたま10000人いた、だから運良く評価してもらえた』ということですか?

村上:そう、その通り。受け手がそもそもいたから、ウケたっていう話。だから、「村上さんはン万マイリスあるから凄いよね、でも俺は再生数100しかないから底辺だなー」て言う人がたまにいるけど、それはおかしいんだよね。一人でも評価してくれる人がいるってことは、俺と同格なんだよ。「人に受け入れられるものをちゃんと作っている」、という点で。
例えばA君、B君、C君、D君っていう人がいて、A君、B君、C君が「これは凄い」と思って評価したものがあって、一方D君一人は「いやそれは別に凄くなくね?」って言って別のものを評価したとする。この状況で、じゃあA君、B君、C君が評価したものだけが、数が多い分本当に素晴らしいものかって言ったら、そうじゃないんだよね。D君が素晴らしいって言ったものも素晴らしいし、逆に言えば、D君が評価しなかった、A君、B君、C君が評価しているものは、本当は素晴らしくないのかもしれない。その評価は個人によるからね。だから、僕のマイリスを見て「凄い!」って思うんじゃなくて、普通に、自分で作品を見て「凄い!」と思えばいいんじゃない、って話なんじゃないかな。


──究極的には、個人でその作品を見て、判断してほしいってことですね。

村上:考え方がみんなそういう評価数のほうに行っちゃってるからね。なんかな、動画制作者に対して変な意識持ってる人が多いから…凄く言葉にしづらいよね、この辺のことは。


──難しいですねぇ…世間一般の評価基準は、どうしても数が多いか少ないか、で偏ってしまいますもんね。

村上:そうなんだよね〜。別にさー金がもらえるわけじゃないしさー。金がもらえるんだったら別だよ? もしマイリス数が金になるんなら、商業的に持って行って、ここだからこうウケるっていう、別の戦略もあると思うから。マイリス数を増やすために、再生数を増やすために、単純にそれだけならもっと上手い方法あるし。釣り動画ってあるじゃん。マイリスして、コメントでこのコードを打ち込めばエロ画像に飛べますって奴。


──ありますね(笑)。

村上:ああいう風にすればマイリス数は稼げるしさ。そういうのとまた違うじゃん、どうせタダだしね(笑)。

手書き動画へ愛を込めて:むら☆かみ


──村上さんは、作品の制作だけではなく、プロデュースの仕方も重要視している*25のが面白いなぁと思います。

村上:見て貰うんだったら、見て貰えるような努力はした方が良いんじゃない? ってことだよね。作品って見るにはやっぱとっかかりが必要じゃん。特にネットではさ。TVだったら垂れ流しにしててたまたま見るとかあるけどね。どこかで宣伝するのもありかもしれないけど、元々俺は「もっと評価するべきタグ」とか欲しい人間だからさ、そういうこと全然考えてないんだよね(笑)。ただ、読者サービスじゃないけどさ、そういうつかみとかはちゃんとやりたかったね。みんながまた見たいと思えるような工夫は。


──確かに技術不足のひとって結構いるかもしれませんね。

村上:逆に技術あるのに面白くないって人は、何を考えているんだろうって思う。シナリオとか、これちゃんと自分で見た?って思う作品もあるし。もし自分が視聴者になりきれないのなら、誰か別の人に見て貰うのもいいし。それで面白くなきゃダメだろ、っていうもんだと思うんだよね。


──なるほど。

村上:シナリオ作りも技術っていう人はいるけど、さほどのものでもないと思うんだけどね。よほど前衛文学にしない限りは。ここがこうしてこうなった、というのを面白いと思ったんなら描けばいいのに、これ本当に自分で見返した?っていう人の作品を見かけるとどういうシナリオ作りをしているのか……俺にはわからん!(笑)


──そのひとの感性が致命的とか。

村上:そうそう、そういう場合も……おそらくそうだよね。


──可能性としてはありますね。

村上:本当ロジカルなんだけどね、シナリオ作りって。遠回りさせれば面白いもん。上手くいかないようにして、その問題を解決させる。それだけで面白くなるんだけどね。異変が起きて、敵が強すぎる→修行する→勝利!とか。恋愛だったら、好きな人がいる→でもその人には別の好きな人がいる→振り向かせるために頑張る!とかさ。最悪向こうを殺すとか(笑)。それでキャラクターを凝れば面白くなると思うんだけどね……。


──なんでしょうね。好きで作ってるものだから、通り一遍の作り方じゃ嫌だ、という感情が出ちゃうのかも。妥協しちゃうところもあるんじゃないですかね。

村上:でも妥協ってのもおかしくない?


──なんていうんですかね、作ってて中途半端な出来だけど、その辺をやり直すのが面倒くさくなっちゃうとか。仕上げまでで疲労困憊しすぎてて、こんなもんだろって妥協するとか。情けないんですが、自分なんかは飽き性なのでよくあります(苦笑)。

村上:僕も絵の方面では妥協しまくってるけどさ…絵が上手いのになんでそうなるのかな〜っていうのが結構あるんだよね…。まぁとやかく言わんほうがいいとは思うんだけどさ…。俺は描くのは二の次で、見ることのほうが好きなんだけど、音のタイミングとかセリフの位置とか、そういう演出面でも、ちゃんと見直した!? これが一番見やすいと思ってるの!?っていうのが結構あるんだよね。やっぱりそこは感性の違いなのかなぁ。もちろん人間だから嫉妬もするけど、その嫉妬がなくなるくらいに面白いものを作ってくれたら、最高なんだけどね。
でもそんな風に考えると、商業漫画ってやっぱ面白いよね。同人とかニコニコで見れる作品とはレベルが違う。まぁそうでなきゃ困るんだけど(笑)。なんで違うかってっとやっぱ担当さんの存在だろうけどね。担当編集者が漫画のノウハウをきちんと持ってるから、あれだけのクオリティが出てくるんだと思う。てかそうじゃないと嫌だ(笑)。漫画家全員にあんな才能があるなんて…悔しい! やっぱり嫉妬しちゃうんだよね〜でも嫉妬ってのもエネルギーになるからさ。


──そういえば一時期平野耕太*26twitterでそんなこと言ってましたね。

村上:ほう。


──嫉妬はガソリンのようなもので、上手く使うともの凄いエネルギーになるけど、取り扱いを間違うと爆発するから気を付けた方がいい、ってことを言ってました。

村上:上手い例えだね。


──普通なお話ほど、一人でかっちり作るのは労力いるのかもしれないですね。

村上:俺はよく言うんだけど、王道を勘違いしたらいかんぜよ、と。本当は王道っていうのは全部が全部面白い作品のことを指すんだけど、最近はあまりにも王道って言葉が使われすぎてて、「こういうのが王道」っていう、設計のほうが浸透してる感じがする。設定じゃなくてストーリーなんだよ、王道は!って話なんだけど…。ヒロインが自己犠牲的とか、そういう端々のやつじゃなくてさ。


──そういえばちょっと話がズレるかもしれないんですけど、私、『魔人探偵脳噛ネウロ*27って漫画が大好きなんですよ。

村上:あ、俺も大好き(笑)。


──完結後のインタビューで作者の方が仰ったんですけど、ネウロって作風が独特の漫画なので、邪道な作品と見られることが多いんですけど、そうじゃないんだ、と。設定の端々はトリッキーにしてますけど、根本のそれはすごく王道な漫画なんです、と。最後まで読み終わって、自分もそんな風に感じましたね。

村上:実際その通りだよね。めちゃくちゃ熱い漫画だと思う。ジョジョ*28なんかも、凄い王道な漫画なんだよね。王道の神様みたいな存在だよ。あれくらい少年漫画してる漫画ってそうそうないよ。みんな少年漫画じゃない、とか言うけどさ。主人公の悩みとか成長、その動機付けや過程がかちっと描いてあってさ、その一つ一つが凄く納得いくんだよね。


──ネウロもそうでしたね。電人HALやシックス*29もそうですけど、日常の中にぽんっと異常が出現しても、その過程がしっかり納得できるんですよね。読んでて不安にならないというか、松井先生の中に描きたいことがカチっと存在してるんだろうなぁと思いました。

村上:あれだね。見てて納得いく漫画だね、王道っていうのは。


──おお、いい言葉ですねそれは! いただきました(笑)!

動画こぼれ話:ム=ラカーミ


──そういえば、博麗霊夢は金が欲しいの完結後に、もの凄い数の次回作を提示してアンケートをとりましたけど、あれは描くつもりがあったんですか? それとも描くつもりはなかったんでしょうか?

村上:描くつもりはなかったね。実はあれもひっかけで。どういう作品が望まれているのか、っていうことを把握したかったんだよね。全部釣りです。ジャンル、キャラクターと傾向も分けて作品を提示してね。案の定紅魔が人気あるんだなってことがわかって、紅魔はやらないことにした(笑)。めーりん凄い人気あったなぁ…。


──いわゆる意識調査だったんですね。

村上:アンケート結果には真実が現れないんですよ。その裏に見えてくるものがある。選択をあえてぼかしたりして、自分の思うことをそのまま書くんじゃなくて、その中間地点みたいな答えを書けるようにしておいたり。項目の順番を変えるだけでも答える側にはだいぶ印象が変わりますし、そういうのを操作して自分の求める答えを導くのが賢いやりかただね。本当はどの作品も描くことはできたんだけど、『博麗霊夢は金が欲しい』を描いている最中に、次回作の構想はもう出来ててさ。実はそれは、『ふゆのひまわり』でもなかったんだよね。


──なんと…! もう一つ別の構想があったんですね。

村上:パチュリーと咲夜の意識が入れ替わるっていう話を実は考えてて。同人誌に同じようなネタがあったっていうのと、さっきの釣りでめーりんに一番人気が集中したってのがあって、それを描くのはやめにしたんだけど。あれはあれで熱い話だったんだけどねー。どっかにあったはず…。あ、そういえばこんなのも(と、とある原稿を指して)。


──これは最終話の故大ちゃんですね。

村上:で、よく見るとさ、一話目のチルノの「あたいってサイキョーね!」ネタが同じページに描いてあるんだよね。


──本当だ(笑)。

村上:この時点で大ちゃんネタは全部書き終わっていたという(笑)。と、あったこれ。


──他の候補作と同じページに描いてあったんですね。

村上:『Red Night Girls』よりちょっと少ないくらいの長さのつもりだっただけど、けっこうな分量になるからたぶんもう描かないだろうねー。入れ替わって、いざこざがあって、でもお互い入れ替わってることは黙ってて…。先にパチュリーが狂っちゃうんだよね。自由に動ける身体を手に入れたぞ!ってなって、遊びまくる。咲夜さんは逆に気に病んじゃって、お嬢様が困ってるかもしれないのに、何も出来ない、みたいな。若干百合っぽいストーリーだったね。個人的に東方で百合は描かないからそれでやめたところもあるんだけど。あと、動画で映してたのはこれとこれと…あとこれだ、天子が尻で箸を折る奴。


──これは後に実現しましたよね(笑)。

村上:超くだらない動画で、結構本気で作ろうと思ってたの(笑)。途中まで描いてたし。でもシナリオパートが色塗り面倒くさくてやめちゃったけど。



──ちゃんとストーリーあったんですね(笑)。

村上:最終的に尻で箸を折るんだけど、そのBGMをキュッキュッキュ、ニャーでしようと思ってて。途中で箸が尻に刺さってゲッダンのメロディに合わせて悶え苦しんだりとかさ(笑)。そうそう、シナリオも面倒くさかったんだけど、この動画部分作るのも糞面倒くさかったんだ(笑)。


──(シナリオ原稿を見ていて)勇儀姐さんが可愛いですね(笑)。

村上:この頃から勇儀姐さんすごい好きだったんだよね。


──現在制作中の『Red Night Girls』はどれくらいのボリュームになりそうですか。

村上:12話くらいで収まるかなと思ったんだけど、このペースだと14,5話くらいいきそうだね。カットがなければ良かったんだろうけどね〜。あれさえなければすいすい話進んでたんだろうけどさ。ニコニコムービーメーカーは10分ていう制約があるので、ある程度長さを調整しないといけないんですよね。

しかし今のpart7までで、一回が平均7分以上だとすると、もう1時間近くくらい合計で費やしてるんだね。


──あと半分ってことは、最終的には二時間映画くらいのボリュームになりそうですね。

村上:けっこう映画は意識して作ってるんですよね。隅のほうにロゴが浮き出てくる演出がありますけど、あれは金曜ロードショーなんかをイメージしてやってるんですよ。だから今回は動画の最後に村上無双も入れてないしね。全部合わせて一本の作品っていう色が強いから。


──第三部の始めまで到達した『Red Night Girls』ですが、何か裏話などがあれば。

村上:No.7の幽々子妖夢の顔芸のところは、けっこうセリフカットしてるんですよ。一瞬殺気を出したらフランが飛びかかってきたのを見て、フランがあの境地でありながら同時に冷静であることに幽々子が気づいて「どちらにしても危険なことに代わりはないわね」と言う、みたいな。実際はセリフカットして、やりとりから想像して貰う風になってますけど。

あ、あと僕の中では妖夢はかなり優秀です。咲夜には戦闘能力や技術では劣るんですけど、気を感じたり、武道系の剣術に必要な能力には秀でているっていう設定になっています。咲夜さんは能力でズルができて修練してない分、そういうものには弱い。この辺もちょこちょこと動画内で出していくつもりだったんですが、語る機会を逃したので、なんとなく想像して貰うしかなくなっちゃいました。

実は命蓮寺勢も話に入れていくつもりだったけど、「紅魔に恩を売るのも悪くない」っていう理由だったので、その辺は守矢勢だけに任せて出番を削ったりしました。オープニング動画にシーン画像入れなくて本当良かったです(笑)。


──今までで一番長大な作品ですが、構成もしっかりまとまっていて全然中だるみしませんよね。

村上:『RED NIGHT GIRLS』は、解説をするのが楽しみですね〜。一話目からあちこちに伏線を散らばせてあるので。意識しなくても普通に読めるようにはしてありますから、気にはならないと思いますけど。今のところコメントでつっこみが出てるところは、そういう何かしらかの含みになってますね。期待してくだされば。まぁ伏線は面白くするための付加要素で、メインになるものではないんですけどね。魔理沙が退場したことで、また色々と動きが出てきますので、その辺も見て頂ければと思います。

ニコニコよ、永遠なれん!?:村上4時


──だいぶできてきましたね。

村上:そうね。しかしこれだけ描いてどんだけ需要があることやら…。


──いや、ありますよ需要。

村上:うん、俺もそう思う(笑)。大体なんで、オランピアさんのエロ画像がこんなに少ねぇんだ!?


──でもそういう性癖も、自分はpixivでだいぶ開発された感がありますね。主にzeさん*30とか。

村上:zeさんは良い絵描くよねー。


──こういう世界もあるのか…って感じで。最初は獣人で…あとトドメになったのは、モノアイ娘でしたね。

村上:あれは良いよね〜。


──人間の、人間以外への愛を描くのが本当に上手いですよね。

村上:あとえろい!まじ描く絵がえろすぎる!あの人俺より年下なんだよね。嫌やわー嫉妬するわー(笑)。と、ぼちぼち時間かな。


──ですね。では最後の質問を。もし東方手書き動画を作っていなかったら、どうなっていたと思いますか?

村上:うーん、別に何も変わってなかったと思う。発表する場がなかったら鬱だったかもしれんけど、まぁそれなりに仕事を探して、漫画は趣味でーみたいな感じだったと思うね。今はニコニコも安定してるからしばらくは大丈夫だろうけど、いつかは終わるときがくるかもしれないし。でもそんな先のことを考えても仕方ないよね。それなりにやっていくだけですね。


──ありがとうございます。本日は、お邪魔致しました!


(2010年8月8日、村上さん宅にて収録)
(文責:げんきゅー)

次回は、東方4コマでおなじみ! コーポさんにお話を伺います。お楽しみに!

*1:伊集院光がパーソナリティを務める深夜ラジオ。TBSラジオ他全国5局ネットで放送されている。黒伊集院と呼称される、TVとは真逆の辛口トークが持ち味であり、深夜ラジオ界を代表する熱狂的な人気を誇る長寿番組である

*2:森見登美彦の小説作品。主人公の「私」が入部したサークルによって大学生活がどのように変容していったか、その可能性をパラレル的に描く連作青春小説。話題になっているのはアニメ版であり、フジテレビのノイタミナ枠で全11話で放映された。監督は湯浅政明、キャラクターデザインはイラストレーターの中村祐介が手がけた

*3:オンラインRPG。ネクソンジャパンが運営。転移と呼ばれる次元移動現象によって様々な異変が起こり始めた世界。変異した動植物「モンスター」と戦う一人となり、プレイヤーは混沌の世界を冒険していく。話題になっているアニメ版は「アラド戦記 スラップアップパーティ」というタイトル。アニメーション制作はGONZO、監督は池添隆博

*4:イラストレーター・島田フミカネのイラストコラムから始まるメディアミックス企画。異形の敵「ネウロイ」が襲来する魔力のある世界。魔導エンジンを利用したストライカーユニットを扱うことの出来る「魔女」達による部隊「機械化航空歩兵(ストライクウィッチーズ)」の戦いを描く。様々なメディアミックスが行われ、特に二度にわたるTVアニメ化は人気を博した。制作はGONZO。監督は高村和宏

*5:正しくは『魔理沙は大変なものを盗んでいきました』。同人サークル:IOSYSの東方アレンジ楽曲。ボーカルは藤咲かりん(現:miko)氏。ニコニコ動画においては、カギ氏が制作したFlashPVが早い段階にUPされ、その中毒性から爆発的な再生数を記録した。東方を知らなくてもこのPVは見たことあるという人は多く、ここから東方を知っていったという人も少なくない

*6:Elecbyte制作の、フリー2D格闘ゲームエンジン。ユーザーが自由にキャラクターやステージを制作することができるのが特徴で、ネット上では数多くの素材が配布されている。ニコニコ動画でも人気のあるジャンルで、数多くのプレイ動画がアップロードされている

*7:SNK(現SNKプレイモア)制作の格闘ゲームシリーズ。SNKのアーケードキャラが一同にかいするドリームマッチ的なソフトであり、龍虎の拳餓狼伝説のキャラが共演したりする。現代も継続して新作が制作されている長寿タイトルである

*8:フリー格闘ゲームMUGENのプレイヤーキャラとして配布されているキャラクター。制作者はReuben kee氏。完全オリジナルのキャラであり、3Dモデリングを2Dに落とし込んだことによるなめらかな動きが特徴。強力なコンボとそれらを使いこなす賢いAIを併せ持っており、そのクオリティの高さから、MUGENを代表するオリジナルキャラクターとして認識されている

*9:週刊モーニング連載。作者は榎本俊二。うだつのあがらないサラリーマン前田郷介を中心に、様々な問題人物達が騒動を起こすギャグマンガ。下ネタ、暴力、殺人、スカトロなど、過激な描写を惜しみなく取り入れており、その破天荒なギャグは熱狂的な人気を誇る。漫画家の間でもファンが多数存在し、完結後刊行されたアンソロジー『えの素トリュビュート』にも多くの著名漫画家が参加している

*10:正式名称は、『DEAD RISING プレイ動画 テクテク死霊記』。作者はテクテクさん。実況プレイではなくいわゆる字幕プレイ動画であるが、高いプレイテクニックと挿入されるネタのセンスの絶妙さから人気の高いシリーズ。長らく更新が途絶えていたが、7月に1年と数ヶ月ぶりに新作が投稿された。

*11:インタビュー前に話題に出ていた『【ゆっくり実況】特性「いかく」だけでバトレボの荒波に揉まれる』のこと。作者はワキ@さん。名前の通りいかくだけのパーティを用いてポケモンバトルレボリューションsoftalkで実況していくシリーズ作品。字幕やBGMなどセンスの高い編集に定評があり、最終回マスターの異名を持つ

*12:東方手書き作者。代表作に、東方日記シリーズなど。喋らない霊夢を中心とした、幻想郷の日常をほのぼのと描いている

*13:星のカービィに登場する敵キャラクター。いわゆる雑魚キャラクターであり、だいたいのシリーズに必ず登場する。敵ながら可愛らしい姿も相まって人気が高い

*14:漫画家、イラストレーター。記号化された簡素なキャラクターが織りなす、唯一無二の漫画表現が特徴。代表作に『FLCL』『Q子ちゃん The地球侵略少女』など

*15:週刊少年サンデー連載。作者は鈴木央。東京23区を実験場とするバトルロワイヤル・23区計画を相手取り、様々な番長たちと戦っていく金剛晄、通称金剛番長の戦いを描くバトル漫画。近年の作品では珍しい、勧善懲悪系のストーリーが特徴

*16:別冊少女コミック連載。作者は吉田秋生ストリートギャングのボス、アッシュ・リンクスと、カメラマン助手の少年、奥村英二。「バナナフィッシュ」という謎の言葉を追ううちに、極秘裏に進められていた化学プロジェクトに辿り着き、ひいてはストリートギャングの抗争や政府の陰謀、マフィアの内紛などが絡み合う、複雑な事件へと巻き込まれていく少年達の物語

*17:作者は士郎正宗。第三次、第四次大戦を経験し、世界秩序が変容した近未来。電脳化、機械化技術が進み、サイバーパンクな世界と化した社会の中で、犯罪を最小限に防ぐために行動する警察組織「公安9課」通称「攻殻機動隊」の活躍を描いた漫画作品。映画やTVなどでアニメ化もされているが物語は独立しており、作品設定もそれぞれ異なっている

*18:週刊少年マガジン連載。作者は赤松健。幼い頃に交わした約束を守るため、東大合格を目指す青年・浦島景太郎が、ひょんなことから美少女揃いの女子寮「ひなた荘」の管理人となってしまうラブコメディ。平成13年には講談社漫画賞少年部門を受賞している

*19:週刊ヤングサンデー連載。作者は新井英樹。理由無く無差別殺戮を行うモンちゃんとトシ、謎の怪物ヒグマドン。彼らの巻き起こす日本全土を震撼させる騒動と、それに関わることになってしまった人々の姿を世界的なスケールで描く、人間群像劇。カルト的な人気を誇る作品で、著名人にもファンが多い

*20:同人ノベルゲーム。作者は竜騎士07。時は昭和58年。外界から切り離されたような空気を持つ村落・雛見沢で巻き起こる怪死・失踪事件を描いたミステリ作品。出題編4編、解答編4編の全8編で構成されており、パラレルワールド的に描かれた多くの謎を解き明かすべく、インターネットを中心に大きな議論を巻き起こした。アニメ、漫画、小説、映画、ゲームなどのメディアミックスも多方面に展開している

*21:同人ゲーム作家。07th Expansionを主催。代表作に、『ひぐらしのなく頃に』『うみねこのなく頃に』『おおかみかくし』など。漫画原作者、小説家としても活動しており、ホラー、ミステリを中心に多くの作品を発表している。なお、東方projectファンでもあり、ZUN氏とは一緒に飲みに行ったり雑誌で対談したりもしている

*22:東方手書き動画。作者は洗濯船さん。無意識を操る程度の能力を持つ、古明地こいし。彼女の無意識によって引き起こされた、紅魔館を、ひいては幻想郷全体を揺るがす大異変を独特のタッチで描いていく。ためらいのない暴力描写や、回を増す事に膨らんでいく物語構成が特徴的な作品で、視聴者の間で常に議論を巻き起こしている

*23:東方手書き動画。作者はakeさん。ネット上における有名なテキストである「ナポリタン問題」を主題にした作品。上白沢慧音の提示する5つの問いかけを、視聴者が推理する形となっている。提示されるお話は動画内の作中作となっており、幻惑的なタッチで描かれたホラー、ミステリテイストの物語は「本当は怖い幻想郷」と称されることも。なお、東方見聞録第7回では、作者のakeさんへのインタビューを予定しています。こうご期待!

*24:ダンジョン探索型のRPG世界樹の迷宮3」に登場するキャラクター。ゲームを始めたばかりのプレイヤーを導くガイド的なキャラクターだが、その正体は…。特徴的な構造をしたアンドロイド少女であり、初プレイの村上さんのハートを鷲掴みにした。ちなみに、その熱意は後に、村上さんをオランピアさんのHCG集制作に走らせることに…。詳しくは村上さんのpixivからどうぞ!(18歳以上に限ります!)

*25:例を出すと、『Red Night Girls』は基本的に、隔週連載のサイクルで動画をアップロードするなどの工夫がされている

*26:漫画家。代表作に『ヘルシング』『ドリフターズ』など。バイオレンスなアクション、破天荒なギャグ漫画を執筆している。作者本人もかなり強烈な人物であり、作品のあとがきやtwitterなどで独特の「ヒラコー節」を爆裂させている

*27:週刊少年ジャンプ連載。作者は松井優征。謎を喰らう魔人・脳噛ネウロと、ひょんなことから彼の隠れ蓑として行動を共にすることになる少女・桂木弥子の活躍を描くミステリ(の皮を被った単純娯楽)漫画。特異な絵柄やアクの強いキャラクターが特徴的な作品であり、作中の描写はネット上でカルト的な人気を巻き起こしたことも(ドーピングコンソメスープなど)。当初からラストに至るまでのシナリオが何パターンも作られていたらしく、23巻という長期シリーズにもかかわらず、ジャンプ漫画としては珍しいほどの綺麗な大団円を迎えた

*28:正式名称は、『ジョジョの奇妙な冒険』。作者は荒木飛呂彦ジョナサン・ジョースターから始まるジョースターの一族と、強大な力を持つ吸血鬼やスタンドと呼ばれる能力を持つ人間達との二世紀に及ぶ戦いを描く長編漫画作品。ストーリーごとに部が分けられており、現在連載中のスティール・ボール・ランは第7部に位置づけられる。作品全体を通して、人類賛歌がテーマとして描かれる

*29:いずれも、ネウロ本編に登場した敵役。詳しくは実際に読んでみるのをオススメします!

*30:絵師。主に人外や機械など、特殊な姿をした娘さんを中心に描いている。zeさんの描く異形の少女達は誰もが可憐で可愛らしく、pixivを中心に数多くのファンを獲得している